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20230127 イニシェリン島の精霊、リスアニ!LIVE 2023 EXTRA STAGE


イニシェリン島の精霊

監督:マーティン・マクドナー 制作:イギリス
 1923年、アイルランド。本土の内戦を遠く眺めるイニシェリン島で、青年バードリックは長年の友人コルムに絶縁を告げられる。「次にお前が話し掛けたら、俺は俺の指を切り落とす」──

 良い映画でした。時代も舞台も現代日本での生活とは隔世の感がありますが、鑑賞感覚としてはそれどころではなく、むしろ現実と親身な物語だったなと何度も思い返しています。

 本土の内戦はあくまでも島の外の出来事。干渉できない歴史をただ眺めながら進む日々には普遍的なリアリティがあり、二人の人間の友情と破局という言ってしまえば小さなドラマに終始する展開と舞台の噛み合いもちょうど良い。島の生活の一部として頻繁に(当然に、自然に)挿入される教会と周辺要素から考えれば、現実の宗教は人間に対して何が出来るかという話には違いなく、また進歩・発展と自己実現を謳う現代社会が「退屈な善人」をどう扱うかの話とも取れます。

 などと書くと重苦しく複層的なテーマがあるようで、実際かなりハードモードなシチュエーションではあるのですが、それなのに鑑賞中も鑑賞後も感触はむしろ軽やかという点がまた特色と言えそうです。結構本当に酷いことになるんですが、なんか明るいんですよね、この映画。それも躁的なキツい明るさではなくて、許容的・肯定的・前向きな明るさがある。マジで酷いことになるのに。広い空と大きな海の美しい景色、マーティン・マクドナー監督の手腕、コリン・ファレルをはじめキャストの演技がなせるもの……。映画の深奥。良い映画でした。


リスアニ!LIVE 2023 EXTRA STAGE

 ライブなどイベントごとの開演が夕方以降になると、先に映画を見ちゃったりする悪癖があります。全然気が散るので本当に良くない。上述の通りこの日もやりました。特に書くこともないのですが同日は千代田区の美術館にも行っていて、特に書くことがないのはそういうことです。本当に良くない。

 リスアニライブといえば出演者の持ち時間の長さ(通例4~6曲の披露)で音に聞く&名にし負うアニソンフェスですが、見に行くのは今回が初めてでした。ライブ自体そんなに行かないので武道館に入るのも初。入ったことのない特殊な建物、入ってみたいですよね。参加の動機で言えばもちろん出演者に惹かれた比重が大きく、あとは学園祭学園の青木佑磨さんが出演されている「リスアニ!RADIO」を楽しく聞いているという面もありました。

 座席はアリーナ席9列目。国旗の真下あたり。ライブ会場としての武道館はキャパ14000人程度ですが、公正中立に記録しておけば座席は両隣空きのいわゆる市松配置で、集客は4~5000人ぐらいに見えました(目測が当てにならない点を留意)。平日開催とはいえさすがにラビー。でもクネクネし放題。隣の椅子に荷物置いちゃう。快適すぎる。絶対この方が良いと思うな……。以下は出番順の感想です。


 楠木ともり

M01. 遣らずの雨 作詞・作曲:楠木ともり 編曲ラムシーニ
M02. 熾火 作詞・作曲:楠木ともり 編曲:荒幡亮平
M03. 山荷葉 作詞・作曲:楠木ともり 編曲:arabesque Choche(Chouchou)
M04. もうひとくち 作詞:楠木ともり 作曲・編曲:ササノマリイ

 開幕『遣らずの雨』!!! ウワーッ! 囁きから一気に爆発するイントロの一瞬の一息で今日この時が来て良かったと完全に満足してしまいました。以降は純益です。正解。完璧な選曲。何というパワー。三日間通してのトップバッターとして、リスアニライブは生バンドなんだぞ!という魅力をバチクソに体現するパフォーマンス。あまりにもカッコ良かった。

 『山荷葉』にも触れておきたい。楠木さんの活動を熱心に追ってきた身ではないのですが、この曲はリリース直後から観測範囲にも(Twitterでフォローしているみなさんのことです)強い反応があったことをよく覚えています。この披露が本当に嬉しかった。一転して静かな曲調、幻想的に統一されたペンライトの緑……"此岸ではない何処か"を見ました。楠木さんのライブが本来ペンライトを使用しない(伝聞情報)こともあり、曲中に徐々に観客それぞれが色を変えていくという「今作られていく光景」を味わえたことも素敵でした。


 Liyuu

M01. TRUE FOOL LOVE 作詞・作曲:TAKUYA 編曲:本間昭光
M02. カルペ・ディエム 作詞:児玉雨子 作曲・編曲:JUVENILE
M03. Endless Vacation 作詞・作曲・編曲:JUVENILE、TeddyLoid
M04. Magic Words 作詞:MC TC 作曲・編曲: TAKU INOUE

 一番踊りました。踊れすぎる。そもそも付け焼き刃の予習として出演者四名の曲を聞いた時点でダントツに刺さっていたのがLiyuuさんで、もっと言えば私の2022年Spotify再生回数ランキングにLiyuuさんが入っていて……という、実のところ何が来ても気持ちいい状態ではありました。愛らしい歌声と明るく強いEDMが好きすぎる。バンド編成のリスアニライブでどの曲をどうアレンジするのかという点も楽しかった。

 元来がバンドサウンドの一曲目『TRUE FOOL LOVE』から華やかなで素晴らしいステージだったのですが("胸がしぃくる しぃくる"で狂う)、やはり『カルペ・ディエム』『Endless Vacation』『Magic Words』の欲張りセットが強すぎました。武道館壊れる。このアレンジを聞くためだけに映像を見返したい。本当に両隣空きで良かった。一席飛んで左にいたLiyuuさんTシャツのお客さんがバチバチに振りコピしていたのもご機嫌。あまりに楽しすぎて意識の一部が「この人はどうしてこんな音楽をやっているんだ……?」などと勝手に考えたりしました。広くアジアの人としてkawaii bassをやっている。

 選曲には何の不満もなく、ただただポジティブな意味で、いつか『Lemonade』も聞きたいですね。いい曲なので。


 降幡 愛

M01. CITY 作詞:降幡 愛 作曲・編曲:本間昭光
M02. City Hunter ~愛よ消えないで~ 作詞:麻生圭子 作曲:大内義昭 編曲:本間昭光
M03. ハネムーン 作詞:降幡 愛 作曲・編曲:本間昭光
M04. 真冬のシアーマインド 作詞:降幡 愛 作曲・編曲:本間昭光

 ところで私は降幡 愛さんのファンなので、この日も紫地にデカデカ「スナック 愛」と書かれたリスアニ!コラボTシャツを着ていました。センス。先ほどSpotifyの再生数云々と書きましたが、降幡さんとAqours周りは別に買って聞いているので別カウントなんですね。このくらいの不合理は見逃して欲しい。

 いやーーー良かったです。感慨もあり、パフォーマンスもバッチリだったと思います。この日の出演者四名のうち降幡さんだけがリスアニ!関連ライブ初出演、しかも本来出演予定だった去年は流行病で直前にキャンセルとなってからの今回だったわけで、まず無事にステージで姿を見られたことが良かった。本当に良かった。本当に。

 振り返った今何より嬉しいのが、ライブ中はそんな勝手な感傷を忘れていたことです。舞台を広く移動しながら歌う姿は堂々として格好良く、曲中のバンドとのコミュニケーションやMCでの客席のTシャツ弄りには余裕すらあり、まさにエンターテイナー。楠木さんと同様、降幡さんのソロ現場もペンライトは使われないため(一次情報)、曲に合わせて光が揺れる景色も新鮮で、かつ慣れたクラップで周囲の観客を先導するようなムーブも楽しめました。いわゆる援護。そう言いたくなる気持ちもよく分かった。ペンライト、邪魔ですよね。大きいライブで見栄えが良いことには同意できます。

 出番順も良かったですね。武道館をでっかいクラブに染め上げるLiyuuさん→80'sサウンド全開な降幡さん、という並びはトリップ以外の何物でもない。両名の特色が際立つ良い配置です。今はいつなんだ。


 鈴木みのり

M01. サイハテ 作詞:岩里祐穂 作曲:金山秀士 編曲:椿山日南子
M02. ミュージカル 作詞:饗庭純 作曲・編曲:出羽良彰
M03. リワインド 作詞・作曲・編曲:白戸佑輔
M04. ルンがピカッと光ったら 作詞:西直紀 作曲・編曲:コモリタミノル
M05. FEELING AROUND 作詞・作曲:三原康司 編曲:田中ユウスケ、立崎優介、近藤隆史 ホーンアレンジ:田中ユウスケ、武嶋聡

 今回出演された四名のうち、鈴木みのりさんだけが唯一完全に初見でした。活動歴からすれば真逆の状態でも全くおかしくなく、というかむしろ明らかにトリの第一候補。リスアニに限らず、ソロアーティストとして踏んできたアニソンフェスの舞台数が違います。私がいかにライブを知らない雑魚かという話です。

 パフォーマンスはまさにアニソンアーティスト。格という字が入るのは怖いですが、ちょっと風格が違いました。観客を盛り上がるアニソンの手札の多さ、歌声の迫力、客の腕を振らせて飛ばさせる鮮やかな手並み、舞台上で語る言葉の熱さ……。銀テ発射がよく似合う! この若さでいくつものステージを見てきた人の、ライブを背負う人間の矜持と凄み。

 これまでを見てこなかったことへの悔しさすらちょっと感じつつ(ワルキューレとしての楽曲『ルンがピカッと光ったら』をいま歌うことの意味や『FEELING AROUND』で持ち出すネギがお馴染みである文脈を二次情報としてしか受け取れない、そもそもタイアップ曲はアニメを見ておく方が当然良いなど)、そういう客も置いていかずに全員の体力を搾り取る懐の深さがまた嬉しかった。後味爽快な最高のライブ。この日この場に鈴木みのりさんがいてくれて、本当に良かった。


 また知らないところに行きたいですね。

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