本多平直議員に対する処分について

本多平直議員の性交同意年齢に関するとされる発言に対する処分に関して、立憲民主党に抗議の意見を送ったので、追記の上、ここで公開する(送った部分については、リンクの修飾、ツイッターの引用を除き送った通り公開する。なお、追記を行った旨、本記事へのリンクと共に立憲民主党に送る)。

本多平直衆議院議員の発言に対する処分について

立憲主義・民主主義とジェンダー平等の実現に向けた御党の努力を支持し、今後一層、これらの理念の実現に向け邁進して戴きたく存じ、その一助となるよう、このたび、性犯罪刑法改正に関するワーキングチームにおける本多平直衆議院議員の発言に対する処分、および本多平直議員の発言に関する調査報告書性犯罪刑法改正に関する法務部会中間報告につきまして、下記の通り意見をお送りします。

まず、本多議員に関する処分について、現在、本多議員に対しては党員資格停止1年間の処分が倫理委員会に諮問されていますが、以下の理由から、処分には大きな疑問があります。

まず、本多議員の意見書の指摘するように、手続き上の問題として、本人の弁明の機会が与えられないまま処分案が常任幹事会に諮られていること(p. 3)、ハラスメント防止対策委員会の委員長である金子雅臣議員から「処分を前提にした検証ではない」と説明されていたにもかかわらず、同委員会の報告書を元に処分が諮られていること(p.p. 6-7)、同委員会の調査の為のヒアリングの状況が明らかでなく、本多議員本人にもヒアリングへの立会いやヒアリング状況の開示がなされていない(p. 7)など、本人の防御の機会が不当に奪われていると考えられます。

そもそも、この問題は産経新聞において出席した議員が「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」などとして、成人と中学生の性行為を一律に取り締まることに反対したことがわかったと報じたことが発端となっていますが、本多議員の意見書によれば、外部講師による大きな年齢差のある恋愛は存在しないとの趣旨の発言に対して「実在の自分が恋愛の存在を主張しても否定されるのか」という疑問を呈したとしています(意見書p. 4)。
意見書の通りであれば、このやり取りにおいては、性犯罪の処罰そのものよりも、大きな年齢差のある恋愛が存在するか否かという性犯罪処罰の前提を問うていることになり、報じられた発言とは状況が全く異なることになります。

そして、本人のツイッターでの説明では、報じられた発言内容については実際の発言内容と異なるとし、また、WTおよび幹事長らとの協議の場の2度にわたって音声データの確認を求めたにもかかわらず、拒否された、さらに、幹事長らとの協議の場では、先方の返答は変遷しているとしています。

14~17歳に対する行為については刑法ではなく都道府県の淫行条例があります。この条例には最高裁判決などを経て例外があり、真摯な恋愛が存在する場合などは処罰されません。ただし、大きな年齢差のある場合に、裁判所が真摯な恋愛を認めることはまずあり得ず、その結論は私も正しいと考えます。6/18
https://twitter.com/pontapiranao/status/1418485239156928521
刑法の保護対象を16歳未満まで引き上げる際に、淫行条例の様に例外を認めるかどうかが大きな論点でした。来年から18歳から成年ですから、18歳と15歳の交際による行為で、18歳が懲役5年以上の刑罰を受けることになりかねません。私は「真摯な恋愛」などの例外規定が必要だと主張していました。7/18
https://twitter.com/pontapiranao/status/1418485240654303233
5月10日のWTで、外部講師の「年齢差の大きな場合に、恋愛は存在し得ない」との趣旨の発言に対し、「100%ないとは言えないのではないか」と考えた私は「例えば(実在の)私が恋愛の存在を主張しても、それを認めないのか」との趣旨の質問をしました。このやり取りが、別の表現に変えられました。8/18
https://twitter.com/pontapiranao/status/1418485241992204288
6月3日朝突然、党所属全国会議員に対しWT中間報告案が一斉送信されその中に例の「50代と14歳の性交の発言」が議論経過の一部として掲載されていました。私が初めてその表現を見たのは、同日11時のWTの場でした。9/18
https://twitter.com/pontapiranao/status/1418485243388973057
年齢の例示から私の発言の記録だと感じた私は、「こうした発言をした記憶はない」「ここまで書くなら音声データを聞かせてほしい」「もし言ったとしたら本意が伝わらない表現なので撤回したい」旨寺田座長に申し上げましたが、拒否されました。10/18
https://twitter.com/pontapiranao/status/1418485244664041472
後にハラスメント防止対策委員会が提出した私に厳しい報告書ですら発言は「50代の私と14歳の子とが恋愛したうえでの同意があった場合に罰せられるのはおかしい」と認定しています。「恋愛のうえで」が削られ、「性交」が付け加えられていたことになります。11/18
https://twitter.com/pontapiranao/status/1418485245947506696
6月4日、発言が匿名報道され、幹事長らと対応を協議しました。私からは音声データの確認を強く求めましたが、「有無が不明」「5月10日のものはない」「あるけれど聞かない方がいい」などと返答が変遷し、確認することができませんでした。12/18
https://twitter.com/pontapiranao/status/1418485247226695680

本多議員のパワハラ的な言動についても、インターネットで問題とされ、調査報告書でも触れられています(p. 6)。しかし、これについて本人の意見書では、

具体的な言動、日時の指摘はなく、反論の仕様もありません。(p. 9)
ハラスメントの告発もなく、具体的な日時、事実関係の特定もないまま、普段の言動や三年前のWTにおける言動が突然に持ち出されて処分に際
し考慮されることは承服できません。(p. 10)

と指摘しています。

このように、発言自体の内容について、本人が全く異なる状況を主張しているにもかかわらず、その点について確認が行われず、またパワハラ的な言動の実態も明らかにされないまま、処分が行われることは、実体的にも不当であると考えます。

(以下、追記)
また、調査報告書および性犯罪に関する提案について、私個人として、さらに下記の問題があることを指摘します。

1. 旧立憲民主党時代の座長発言について

調査報告書では、旧立憲民主党時代の座長が厳罰化に否定的な発言をしたことに触れ、これを

被害者団体などとの感情的対応(p. 5)

と評価していますが、当時の座長の当該発言はあくまでも現実的な刑事政策の議論として厳罰化の効果について説明し、厳罰化には慎重であるべきという立場について説明したものであり、感情的対応と言えるものではないと考えます。
実際問題として、厳罰化よりも、現在主に議論されているように、処罰範囲を広げることが重要であると考えます。

2. 「限界事例」および「議論の混同・混乱」について

調査報告書では

過去の司法判断などの「先例」やそこで判断された「限界事例」を根拠に刑法改正に対応する必要はないとする論議は、司法判断を重視するものである。しかし司法判断による過去の先例や限界事例は、立法府における政策論議を拘束するものではなく、むしろ憲法に基づく三権分立の基本原理からすれば、立法府が司法判断に拘束されるのであれば、立法府としての役割を果たすことにはならない(p. 11)

と書かれています。しかし、過去の司法判断を根拠として刑法改正に慎重な立場を取る人々が主張しているのは、
i) 過去の司法判断においても、暴行脅迫、抗拒不能の範囲をある程度広く取って処罰する判決はいくつか存在しており、改正を求める根拠として主張されている、性暴力の中でも一部しか処罰されないという論には事実に反する部分があるのではないか
ii) 「限界事例」は刑事司法では適正に処理するのが難しい
という2点から、改正に当たっては司法判断を丹念に分析し、どのような事例が適正手続保障の観点から刑事司法という場に馴染むかも含めた議論をすべきということであり(したがって、性犯罪処罰と年齢の関係においては、両者の年齢や関係、性行為に至る経緯など多様な事例を想定し、議論すべきであるということになると考えられます)、司法判断を単純に尊重するものではないと考えます。

このほか、

また、「暴行脅迫要件」を同意の有無の判断要素とする以上に、「抗拒不能」まで求める判断の根底には、刑法による保護法益の主体であるはずの被害者を「法の他者」である「対象」化してしまい、刑事手続法(無罪推定と適正手続保障)に基づく保護の主体である行為者を「主体」としてしまう倒錯・混乱と混同がある(p. 11)

と書かれていますが、実際問題として、適正手続保障は刑法の自由保障機能と一体のものであり、刑法の処罰規定と分離して議論することはできないものと考えられます。構成要件の充足の証明が訴追者たる検察に求められ、性犯罪処罰においては、その前段階として通常、警察による捜査が行われる以上、構成要件を見直すにあたり、構成要件の充足の証明にあたって適正な捜査が行われるかは無視することのできない論点であると考えられます。

なお、現在、司法判断は暴行脅迫、抗拒不能の範囲を広く取っていく傾向にある一方で、地方裁判所の判決の中には今なおこれらを極めて狭く解釈するものがあるという状況にあると認識していますが、暴行脅迫、抗拒不能の範囲を広く解釈し、あるいは、より軽度の暴行脅迫を以って足りることを明記するなどの改正は、司法判断の分析、適正手続保障の観点から刑事司法という場に馴染むかなどの議論を踏まえた上で行うことが可能であると考えておりますので、御党におかれましても、十分な議論の上で改正の提案をしていただきたいと考えております。


3. 女性=妊娠・出産する者という本質化

「性犯罪刑法改正案について(案)」において「中学生の脆弱性」として(なお、「中学生」という表現を13歳以上16歳未満の人という意味で用いることは、当該年齢であるにもかかわらず無戸籍により通学できない人や様々な事情でより高い年齢で夜間中学校に通学している人の存在を無視しているという点で不適切な表現であると考えます)

中学生は、いまだ義務教育の過程にあり、意思決定や判断の能力はなお脆弱と言える。妊娠リスクや性感染症リスクなど性行為についての知識も十分ではなく、性行為の対象となった中学生は無防備なまま妊娠リスクや性感染症リスクに晒されることになる。
妊娠すれば医療的にハイリスク妊婦となり、社会的にも学業の継続は困難となり経済的困難に陥りやすい。このような状況で、中学生が妊娠する可能性のある行為を国として容認するのかが問われている。(p.p. 3-4)

と書かれています。また調査報告書において

第3に、以上と同様に、性行為は女性が妊娠・出産の身体機能を宿命づけられ、一回の性行為が一生涯の人生の選択を決定づける行為であることに対し、男性には一回の性的満足で完結する行為であって、そうした観点からすれば性行為自体がそもそも対等ではない。(p. 10)

と書かれています。

事実として、現在の日本では多くの女性(生物学的に女性である人)が性暴力によるか否かを問わず、望まない妊娠に苦しんでいることや、妊娠出産により学生が退学に追い込まれたり、働く女性が妊娠出産により離職を余儀なくされたり、非正規労働に転換されるなどの不利益な扱いを受けていることなど、妊娠出産に関しては多くの問題が存在します。新型コロナ禍が続く中、こうした困難はますます深刻さを増しています。その点において、女性にとって妊娠リスクの問題は非常に深刻な問題です。

そして、妊娠出産に関する女性の困難の背景には性教育が十分でないこと、女性が主体的にできる避妊の選択肢が限られていること、中絶費用の高価さや中絶に配偶者の同意が必要なこと(これらのこと自体が女性が自己の身体のことを決定する権利が不当に制限されている状況と言えます)、出産育児への企業の理解や公的な支援の不足など、多くの問題が存在しています。

しかし、性行為全般に関する刑法改正を考える上で、妊娠リスクが問題となるのは性行為の中でも、妊娠させることのできる男性が妊娠可能性のある女性と性行為を行う場合に限られており、トランスジェンダーの女性を含む生物学的な男性や、生物学的に女性であっても不妊により妊娠できない人々の性被害、あるいは同性間で起きる性被害などは妊娠リスクを基礎として説明することができません。

現在、ジェンダー平等の観点から、軽視され、訴えづらい状況にある性的少数者の性被害、そしてやはり軽視される傾向のある男性の性被害をも視野におき、両者の生物学上の性別や社会的な性別、性自認などに関わらず性暴力を処罰することが求められており、妊娠リスクではなく性と身体に関する自己決定権の観点を基礎とし、児童などの心身において脆弱性を持つ人々に対してその脆弱性を利用して性行為を行うことは形式的に同意があっても自己決定を真に尊重したものではないとしてその責任を論じる必要があります。

妊娠リスクを基礎として性暴力概念を論じることは、このような、性的少数者や男性の性被害を結果として周縁化し、性的少数者の排除を助長するおそれがあると考えます。

そもそも、妊娠リスクの問題は、上記のように、性教育が十分でないこと、女性が主体的にできる避妊の選択肢が限られていること、中絶費用の高価さや中絶に配偶者の同意が必要なこと、出産育児への企業の理解や公的な支援の不足など、リプロダクティブヘルス・ライツに関する劣悪な施策の結果であり、現在緊急避妊薬の市販化が検討されているように、本来これらの施策の改善によって解決すべき問題であって、妊娠リスクのある現状を性暴力を論じる大前提に置くことは女性を妊娠・出産する者として本質化する倒錯した議論であり、形を変えた「産む機械」発言ですらあると考えます。

今年初め、フラワーデモみえが性暴力について

性暴力の被害加害は、男女LGBTQそれぞれにあり
相手の尊厳を無視した、性的言動、セクシュアルタッチ、性的接触、挿入は、性別に関わらず性暴力ですが
身体の内に生命(子)を孕み産む、生殖機能を持つ女性にとって、生命の根幹により深く関わる、性的侵襲です
私達はその女性の尊厳を訴えています
http://web.archive.org/web/20210128055621/https://twitter.com/flowerdemoMie/status/1354669536478253059


とツイートしてトランスジェンダーへの差別を助長するとして非難されましたが、性犯罪刑法改正案に関する提案および調査報告書にある上記の文言も同様の問題を有していると考えます。

現在、インターネット上ではトランスジェンダーの女性に対する差別・排除を訴える発言が広がっており、深刻な問題となっていることは既に把握されていることと存じますが、こうした状況において、性犯罪刑法改正案に関する提案および調査報告書にある上記の文言は女性を妊娠・出産する者として本質化し、トランスジェンダーの女性に対する差別・排除を助長するものであり不適切であると考えます。


最後に、20歳以上の人が16歳未満の人と性行為を行うことを犯罪とすること自体は基本的になされるべきだと考えております。その為には、上でも触れたリプロダクティブヘルス・ライツ全般の改善と共に、立法及び運用にあたって下記の点について特に留意されるべきであると考えております。

1. ジェンダー間の平等

上記の通り、現在、軽視され訴えづらい状況にある性的少数者の性被害、そしてやはり軽視される傾向のある男性の性被害をも視野におき、両者の生物学上の性別や社会的な性別、性自認などに関わらず性暴力を処罰することが求められていると考えております。そのために、妊娠のリスクの有無に関わらず、性と身体に関する自己決定権の観点と脆弱性のある人々の保護の観点から性暴力を処罰する必要があると考えます。

2. 年少者による加害の可能性のある事例への注意

年少者が加害者である場合、性行為があったことが証明されても、年少者が強要したことが証明されない時には成人が加害者であるとして逮捕・処罰される危険があります。特に、捜査・裁判関係者が、性犯罪が行われる多くの場面において被害者が抵抗が不可能となることを理解していない場合、成人が被害者である場合、実際には被害者が抵抗不可能であったのに、抵抗可能であったにも関わらず抵抗しなかったとして成人の側が加害者として処罰されるという、著しい二次加害を発生させる恐れがあります。このようなことの起きないよう、年少者が加害者である可能性のある場合について細心の注意が必要であると考えております。

3. 未成年者のより適切な保護

未成年者の性行為の背景には、親によるネグレクトその他の虐待などがある場合が少なくありません。親による虐待を逃れるために家出をし、頼った相手と性行為を行う場合や生計を立てる手段として児童売春などに関わる場合などが考えられます。このような場合には適切な保護が必要であるにも関わらず、性行為を行った未成年者を非行として扱われるという問題があります。

第2点で挙げたような状況であれば未成年者であっても加害者として処罰する必要のある場合はあると考えますが、一方で、適切な保護が必要な場合は少なくありません。このような場合に適切な保護を講じると共に、将来、16歳未満との性行為に関して処罰範囲を拡大した際に、その運用および周知・啓蒙にあたっては、未成年者の性行為を処罰するという誤解を招くことのないよう、細心の注意が必要であると考えております。


以上の意見が、御党の立憲主義・民主主義とジェンダー平等の実現に向けた取り組みへの一助となることを祈り、お送りいたします。

2021年7月26日

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