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様々な言語の副詞の言い方

「副詞」とは、動詞や句などを修飾できる品詞であり、多くの言語の文法分析において立てられる品詞であるが、他の品詞のように明確な指標がなく、むしろガラクタ入れにように、余った修飾語をとにかく入れる品詞分類である。それ故にこの概念を如何に訳すべきのか、かなり難しい。では実際に世界中の言語でこの概念は如何に表されていたのかをみてみよう。

「副詞」

  • Chinese: 副詞/副词

  • Korean: 부사(副詞)

  • Japanese: 副詞

  • Vietnamese: phó từ(副詞)

まず、一番身近な「副詞」という漢語を考えてみる。綺麗に漢字圏に「副詞」と統一されているよう見えるが、実は今のベトナム語には「狀詞」という別の言い方をすることが多い。

では、そもそも「副詞」とはどういう意味なのだろうか?「副部長」のように、副次的な語、あまり重要じゃない言葉という意味なのだろうか?しかし、これならどうやって後文で言及される西欧諸語の adverb の訳語としてどう対応させ得るのか。まず、その元をたどってみよう。

「副詞」というのは新漢語なのは間違いないのであるが、これはそもそも中国語が先なのか、日本語が先なのかはわからないが、中国側を確認してみると『英華字典』の中では「勢字」と異なる訳し方がなされており、また日本側は遅くとも明治初期に蔵田屋清右衛門『英和対訳袖珍辞書』(1869年)、『和訳英辞書』(1869年)、西周の『百学連環』(1871~1872年)には出てきているため、近現代で使われる「副詞」の概念は恐らく日本起源で、日本から広がっていった蓋然性が高かかろう。それなら、この「副」の意味はなんであろうか。

羅布存德 著/井上哲次郎 増訂『增訂英華字典』(1884年)
高橋新吉、前田献吉、前田正名 編『改定增補和譯英辭書』(1869年)

大槻文彦『広日本文典』(1897年)には、「副詞は、動詞に副ひ、或は、形容詞、又は、他の副詞にも副ひて、其意味を種種に修飾する語なり」と解釈され、「他の品詞に副(そ)ふもの」という解釈がなされている。少なくとも20年も隔てがあるので、本当にそうだったのかはさらなる文献がなければわからないが、副うもの、即ち他の品詞にくっつけている品詞という意味であれば、後文の adverb の語源と通じることができるので、「副次的なもの」よりかは納得できよう。

「語に引っ付くもの」

西洋古典学の濫觴により、多くの言語では、前置詞と「語・動詞」を意味する単語をくっつけて、その語あるいは動詞の横にある言葉という意味で表している。

  • Ancient Greek: ἐπίρρημα

    • Greek: επίρρημα

  • Latin: adverbium

    • Aragonese: alberbio

    • Asturian: alverbiu

    • Basque: adberbio

    • Breton: adverb

    • Catalan: adverbi

    • Danish: adverbium

    • Esperanto: adverbo

    • Estonian: adverb

    • Finnish: adverbi

    • French: adverbe

    • Galician: adverbio

    • Friulian: avierb

    • German: Adverb

    • German: Adverbium (dated)

    • Ido: adverbo

    • Indonesian: adverbia

    • Interlingua: adverbio

    • Italian: avverbio

    • Latvian: adverbs

    • Malay: adverba

    • Maltese: avverbju

    • Norman: advèrbe

    • Northern Sami: advearba

    • Norwegian (Bokmål): adverb

    • Norwegian (Nynorsk): adverb

    • Plautdietsch: Adwerb

    • Occitan: advèrbi

    • Polish: adverbium, adwerbium

    • Portuguese: advérbio

    • Romanian: adverb

    • Volapük: ladvärb, ladvelib

    • Scots: adverb

    • Serbo-Croatian:а̀дверб / àdverb

    • Sicilian: avverbiu

    • Spanish: adverbio

    • Swedish: adverb

    • Welsh: adferf

    • Yiddish: ⁧אַדווערב

  • Dutch: bijwoord

    • Afrikaans: bywoord

    • Danish: biord

    • Limburgish: biewaord

    • Old English: bīword

    • Westrisian: bywurd

  • Faroese: hjáorð

  • Russian: наре́чие

    • Bulgarian: наре́чие

    • Chuvash: наречи

    • Eastern Mari: наречий

  • Polish: przysłówek inan

    • Belarusian: прысло́ўе

    • Czech: příslovce

    • Kashubian: przësłówk

    • Ukrainian: прислі́вник

    • Slovak: príslovka

    • Slovene: prislov

    • Macedonian: прилог

    • Serbo-Croatian: прѝлог / prìlog

  • Armenian: մակբայ

  • Georgian: ზმნიზედა

  • German: Nebenwort

  • German: Zuwort

    • Middle High German: zūwort

    • Middle High German / Earlyew High German: zuwort

  • Irish: dobhriathar

  • Tagalog: pang-abay

「状態を表すもの」

前述のように、ベトナム語では、副詞を「狀詞」とも言う。これは明らかに、副詞の中で状態・様態を表すものが多いからであろう。

  • Vietnamese: trạng từ(狀詞)

  • Bashkir: рәүеш

    • Tatar: рәвеш

  • German: Umstandswort

    • Plautdietsch: Omstauntswuat

  • German: Zeitnebenwort

  • Icelandic: atviksorð

  • Latvian: apstākļa vārds

  • Estonian: määrsõna

「動詞を縛るもの」

縛る・限定する・決定すると言った意味もよく使われる。

  • Albanian: ndajfolje

  • Burmese: ကြိယာဝိသေသန

  • Hungarian: határozószó

  • Persian: ⁧قید⁩

    • Pashto: ⁧قيد

  • Zulu: isandiso

「動詞的な形容詞」

形容詞は名詞を修飾する語であれば、副詞は動詞を修飾する語なので、動詞の形容詞というのも自然であろう。

  • Sanskrit: क्रियाविशेषण  (kriyāviśeṣaṇa)

    • Pali: kiriyāvisesana

    • Bengali: ক্রিয়া-বিশেষণ (kriẏa-biśeśon)

    • Gujarati: ક્રિયાવિશેષણ (kriyāviśeṣaṇ)

    • Hindi: क्रिया-विशेषण (kriyā-viśeṣaṇ)

    • Kannada: ಕ್ರಿಯಾವಿಶೇಷಣ (kriyāviśēṣaṇa)

    • Khmer: កិរិយាវិសេសន៍ (keriyaa visaeh)

    • Malayalam: ക്രിയാവിശേഷണം (kriyāviśēṣaṇaṁ)

    • Marathi: क्रियाविषेशण (kriyāviṣēśaṇa)

    • Odia: କ୍ରିୟା ବିଶେଷଣ  (kriya biśeṣôṇô)

    • Sinhalese: ක්‍රියා විශේෂණය (kriyā wiśēṣaṇaya)

    • Telugu: క్రియా విశేషణము (kriyā viśēṣaṇamu)

    • Thai: กริยาวิเศษณ์ (grì-yaa-wí-sèet)

    • Khmer: គុណកិរិយា

  • Hebrew: ⁧תֹּאַר הַפֹּעַל \ תואר הפועל

「箱」

箱である。意味は恐らく動詞に文脈を与えて包んでいることであろう。アラビア語の文法用語が一貫して抽象的な名詞を持って文法用語として転用するので、例えば他の多くの言語同様の「名前」→「名詞」、「動作」→「動詞」以外に、「文字」→「助詞」、「報告」→「述語」、「隣人」→「前置詞」、「牽引」→「目的語」のような命名をしている。

  • Arabic: ⁧ظَرْف⁩

    • Persian: ⁧ظرف⁩

    • Azerbaijani: zərf

    • Crimean Tatar: zarf

    • Turkish: zarf

    • Zazaki: zerf

    • Tajik: зарф

独自のもの

「ものの語」

  • Finnish: seikkasana


よくわからなかったもの

以下のものは調べてもよくわからなかったので、お詳しい方がいらっしゃればご教示いただければ幸いです。

  • Amharic: ተውሳከ ግስ

  • Aramaic: ⁧עלמלתא

  • Aymara: mayjachiri

  • Basque: adizlagun

  • Chechen: куцдош

  • Chuvash: ӗҫхӗлтеш

  • Erzya: малавал

  • Kapampangan: panantabe

  • Kazakh: үстеу

  • Kazakh: шылау

  • Kurdish (Northern): hoker

  • Kyrgyz: тактооч

  • Lao: ຄຳກິຣິຍາວິເສດ, ວິເສດ

  • Lingala: lilandi

  • Lithuanian: prieveiksmis

  • Maori: kupu tūkē, tūkē, tūmahi āhua, tūwā

  • Mongolian: дайвар үг

  • Nahuatl: cauhtic

  • Ossetian: фӕрсдзырд

  • Quechua: hinarimana

  • Swahili: kielezi, kisifa

  • Tajik: қайд

  • Tamil: வினையுரிச்சொல்

  • Thai:วิเศษณ์

  • Turkish: belirteç

  • Turkmen: ahwalet, hal

  • Urdu: ⁧متعلق فعل⁩

  • Urdu: ⁧تابع فعل⁩

  • Uyghur: ⁧ھالەت⁩, ⁧رەۋىش⁩

  • Uzbek: hol, ravish

まとめ

以上のように、「副詞」という難しい概念でも、多くの言語は頑張って独自な訳し方をしているようだ。

出典

以上の語の情報は、以下に拠る。

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