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2022年7月31日の夢。

こんな夢を見た。

その道路から少し離れた水田には蓮が生い茂っていた。

通勤ルートだったため、よく通る道だった。
毎朝遠目にも淡い桃色の蓮の花がきれいに咲いているのがよく分かった。

淡い桃色が右目の視界の端にチラチラッと入るだけでこめかみがフワっと軽くなるのを感じた。

「一度近くで見てみたいなぁ」

そう思って毎日車を走らせていた。

***


休日、友人とその蓮を近くで見ることにした。

通勤ルートであるものの、どこで曲がれば良いか分からない。

なんとなくで左に曲がってみたら少し近くまで行けた。

どうやらその水田は寺のもののようだ。
寺の看板が出ている。

もっと蓮を間近に見るには寺の敷地を通って行く必要があるようだ。

寺に着くと「蓮をご覧の方はお声がけください」という案内板があったが、受付らしきところには誰もいなかった。

「誰もいないねえ」


「本当だね」

「あっ、お坊さんがいる!聞いてみよう!」

受付の少し先の廊下に僧侶らしき人の後ろ姿が見えた

「すみません!」

友人の大きな声が廊下に響いた

よく掃除されたピカピカの廊下を歩いていた僧侶が振り返った。

若い、色白の僧侶だった。

「どうなさいましたか?」

「蓮を近くで見させていただきたいのですが」

「ようこそお越しくださいました。蓮池は少々特殊な移動手段でないと行けないものですから。どうぞ、こちらへ。ご案内します。」

私たちは僧侶の後を着いて行った。

廊下の角を2回曲がった時、僧侶が口を開いた。

「蓮池へは手を使って行っていただきます。」

「て?」

「はい。『手』です。着きました。」

僧侶は「手」と書かれた部屋の前で立ち止まった。
「手」の間(この呼び方で合っているのかは分からないが)の戸は固く閉ざされているようだった。

「手って、この、手ですか?」

私は自分の手をヒラヒラと振ってみせた。

「さようでございます。ただ、使うのはお二人の手ではございません。この部屋の中にあります。」

僧侶は部屋の南京錠を解き、部屋の扉を開いた。

中は真っ暗だったがしばらくすると向こうの方から青白く光るものがうねうねとこちらに近づいてきた。

「手」だ。
数えきれないくらいたくさんある。

「手、ですね。」

「はい。手、でございます。」

「これで行くんですか?」

「はい。これで行っていただきます。」

「大丈夫なんですか?これ。あの世とかに連れて行かれたりしません?」

「大丈夫ですよ。帰って来られなかった方はいませんし、この手の持ち主のみなさんとは生前、『蓮池に人を運んだら極楽浄土へ行ける』というお約束をしているので、みなさん、『自分こそが蓮池に連れて行くんだ』と言わんばかりに押し合い取り合いで蓮池まで運んでくださいます。さ、こちらに。」

僧侶は仏具のような装飾がされた刺又をいつのまにか持っていた。

それで私たちを部屋の中へぐいっと押し込んだ。

私たちは青白い手に囲まれ、青白い手たちに持ち上げられるようにしてどこかへ連れて行かれた。

友人に何か言いたかったが、手がものすごいスピードで進むのでなにも言えなかった。

どの手もひんやりとして気持ちよかった。

すると、先の方に四角い光が見えた。

出口だ。

あんなにたくさんあった手は無くなっていた。
いや、私の右手首を掴んでいる手が最後の手だった。

最後の手は私をぐいっと外に引っ張り出してくれて、日の光の中に溶けるように消えた。

「ありがとう」という声が自分の中に響いた。
きれいな女の人の微笑む顔が頭に浮かんだ。

「ありがとう」
私もつぶやいていた。

友人と私は手を繋いで池近くまで行き、限りなく白に近い薄桃色の蓮の花を見た。

最後に引っ張り出してくれた手によく似ていたきれいな蓮だった。

#夢日記 #20220731