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福島の子供の甲状腺がんに関する正しい情報を知ってください

1月19日に「小児甲状腺がん患者6人、東電提訴へ~4人は再発患者 」というニュースがマスコミで流れたことをきっかけに、誤った情報がSNS等を通じて流布されています。福島の子供や若者に害が及ばないよう、SCOとして下記の情報を提供したいと思います。お知らせしたいのは次の6つのことです。

1. 福島で甲状腺がんが増加しているのは放射線の影響ではない
2. 福島で甲状腺がんが増加しているのは過剰診断が原因
3.子供や若者の甲状腺がんは大人のものと全く違う
4.無症状の子供や若者に対する甲状腺検査は有害無益
5.転移をしていても過剰診断例である可能性は否定できない
6. 過剰診断されてしまえば手術を避けるのは困難
7. 患者さんは過剰診断の被害を訴えない

1. 福島で甲状腺がんが増加しているのは放射線の影響ではない


福島県の子供たちの被曝量は、甲状腺がんのリスクの上昇が懸念されるレベルのはるかに下です。2020年に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR(アンスケア):放射線の健康影響を扱う世界で最も権威のある専門家委員会です)が報告書を出し、福島では放射線による甲状腺がんの増加はみられないと結論づけています。

2. 福島で甲状腺がんが増加しているのは過剰診断が原因


アンスケアは2020年の同じ報告書で福島で甲状腺がんが増えている原因として過剰診断の可能性があるとしています。過剰診断とは、検査しなければ一生気づかなかったがんを精密検査で見つけてしまうことです。実際、放射線の影響がほとんどなかった会津地方でも被曝量の多かった地域と同等の多数の甲状腺がんがみつかっています。他の県で同じ検査をすれば同様の結果となるはずです。福島で甲状腺がんが増加している原因は、放射線の影響ではなく過剰診断によるもの、というのは国際的には専門家たちの一致した見解です。

3.子供や若者の甲状腺がんは大人のものと全く違う


子供や若者の甲状腺がんは、首のリンパ節や肺に高い確率で転移しますが、予後は非常に良く、生涯生存率は95%以上で滅多に患者を殺しません。大人の甲状腺がんとは全く異なります。このような甲状腺がんは、幼少期に発生し、10代後半から20代にかけて急速に増大し転移もしますが、30代以降成長が止まり、縮小する例さえあります。そして、そのほとんどが超音波検査をしなければ見つからない大きさのまま無症状で一生経過します。これを見つけてしまうと過剰診断になります。実際、30代で超音波検査をすると、200人に1人、という高い頻度で無症状の甲状腺がんが見つかります。福島で見つかっている甲状腺がんはこのようながんの発生初期を高精度の超音波検査で掘り起こしたものです。見つかった甲状腺がんのほとんどが過剰診断例であると推測されています。

4.無症状の子供や若者に対する甲状腺検査は有害無益


無症状の子供や若者に対して甲状腺超音波検査を実施し、超早期の甲状腺がんを見つけて治療しても、死亡率が減ったり、再発率が減ったりすることはありません。早期発見・早期治療は無駄なのです。子供や若者の甲状腺がんは、首に目立ったしこりがあるなど、症状が出てから診断・治療しても十分間に合う病気です。
アメリカのメーヨークリニックの長期間にわたるデータでは、超音波検査が導入されて早期診断・早期治療をされる症例が増えた結果、子供の小さな甲状腺がんの30年後の再発率がほぼ0%から50%超に逆に増加しています。無理な縮小手術をしたり、検査や治療でがん細胞の播種を引き起こしたりして、寝た子を起こす形で再発率を高めてしまった可能性も懸念されています。
また、チェルノブイリでは甲状腺超音波検査をやった結果、多数の子供の命が助かった、と信じておられる方も多いですが、超音波検査による早期診断・早期治療をしたからこそ命が助かった、と証明されている例は一例もなく、チェルノブイリにおいても過剰診断が起こっていたのだ、というのが現在の専門家の一般的な見解です。
これらのことから、諸外国のガイドラインは無症状の対象者に対する超音波検査は非推奨としています。またWHOのがん専門部会のIARC(アイアーク)は2018年に「原発事故後の甲状腺スクリーニングはするべきではない」との報告書を出しています。すなわち、福島では国際的に「するべきではない」という評価になってしまっている検査が今でも行われていることになります。

5.転移をしていても過剰診断例である可能性は否定できない


若年者の甲状腺がんは「転移した後で」成長を止めます。実際、1cm程度の長期間無症状であった小さな甲状腺がんでも、手術をすればその大半で首のリンパ節に転移が確認されます。ですから、手術をして転移が確認されていたとしても、将来にわたって無症状であった可能性は否定できません。

6. 過剰診断されてしまえば手術を避けるのは困難


子供や若者の場合、たとえどんなに小さくても、また過剰診断である可能性が高くても、手術を避けることは困難です。本人や親が「がん」を放置することに耐えられないからです。また、経過観察をするとしても一生涯にわたるためその負担は非常に重く、総じて過剰診断がもたらす被害は甚大です。将来のある子供や若者に「がん患者」のレッテルを貼ることは、それほど重大なことなのです。

7. 患者さんは過剰診断の被害を訴えない


無駄な検査によって過剰診断の害を受けた患者さんはその被害を訴えません。患者さんはがんと診断され、治療を受けたことで傷ついています。そこへもってきて、過剰診断で検査や治療を受けたことが無駄であった、ということになればさらに傷つくからです。逆に、検査をどんどん受けるべきだ、と主張してしまうことさえあります。これは過剰診断が発生した時に起こるポピュラリティーパラドックス、という有名な現象です。もちろん、患者さんたちがこのような発言をすることを妨げるものではありません。しかし、マスメディアが過剰診断についての情報を省いて発言をそのまま取り上げることには大きな問題があります。それを信じた読者・視聴者が検査を受ければ過剰診断の新たな被害者になるからです。最初の被害者が逆に加害者の立場になる、というさらに救われない状況を招きます。マスメディア方々におかれましては、子供たちの人権に配慮した報道をお願いしたいと思います。

最後に


1月19日の報道から、いわれなき風評が広がり、なかには「福島の子供たちの遺伝子は汚されている」等、心無い情報を流している方々もおられます。このような現状を危惧して上記の情報を出しました。本来、このような情報を皆さんにお伝えするというのは福島県をはじめとした行政や学会がなすべきことです。しかし、おそらく過剰診断・過剰治療についての非難の矛先が向くのを恐れてなのでしょう、適切かつ積極的な情報発信が行われているとは言い難い状況が続いています。責任ある立場におられる方々におかれましては、子供や若者の人権と健康を守ることを最優先に考えていただき、各人の良識に基づいた行動をとられることを望みます。


〇もっと詳しく知りたい方は下記にアクセスしてください。


・若年型甲状腺癌研究会 https://www.med.osaka-u.ac.jp//pub/labo/JCJTC/about.html

・週間医学界新聞:過剰診断で悲しむ人をゼロにしたい
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2021/3408_01


・論座:子供や若者の甲状腺がんの早期発見は有害無益である
https://webronza.asahi.com/national/articles/2021081800002.html


・悲劇をこれ以上拡大させないためにー「福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか?」SYNODOS https://synodos.jp/library/27503/