研究目的で甲状腺超音波スクリーニング、それやっちゃっていいの?
今回はまもるの素朴な疑問をお話しさせてください。
研究目的で甲状腺超音波スクリーニングが行われているかどうかを調べてみました。
チェルノブイリ周辺国では今でも日本の支援で研究目的での甲状腺超音波スクリーニングが実施されています。例えば次の文部科学省の科学研究費助成事業がそうです。
また、日本では人間ドックで実施した甲状腺超音波スクリーニングに関する研究論文がでています。
① の研究では54名の、②の研究では9名の対象者に甲状腺がんが見つかっていますが、これらは韓国の経験を踏まえると過剰診断である可能性が高いと考えられます。
つまり 甲状腺がんスクリーニングを推奨せずと勧告しています。過剰診断等の害が利益を上回るからです。
医学研究の倫理規定を定めたヘルシンキ宣言には次の記載があります。
つまり、たとえ対象者が「検査をしてくれ」と言っていても、害が利益を上回る場合(無症状の対象者への甲状腺超音波スクリーニングはその典型です)、研究目的でそのような検査をしてはいけない、ということです。
上で紹介した研究は、すべて論文の中に「倫理委員会の承認を得て実施されている」との記載があります。しかし、害が利益を上回っているのですから、どう考えてもヘルシンキ宣言に抵触しているようにしか見えません。こういうのってやっちゃってもいいのでしょうか。倫理委員会できちんとした審議がされているのでしょうか。
これは福島の甲状腺検査についても言えます。
福島の場合は、害が利益を上回る、という点に加え、学校検診の強制性と過剰診断の記載が無いなどインフォームドコンセントの不備についてもヘルシンキ宣言に抵触していると考えられます。しかし、このような状況でも福島県は、福島県立医科大学の倫理委員会が承認しているから、と検査を正当化していますし、福島県立医科大学が発表した論文には福島医大の倫理委員会で承認されているという記載があります。
これらの状況を見ていると、倫理審査そのものがないがしろにされているような気がします。その結果、多くの人たちが研究対象とされたことによる健康被害に遭っているのではないでしょうか。
もちろん、研究調査でないならヘルシンキ宣言にのっとる必要はないかもしれません。しかし、ヘルシンキ宣言を無視した研究は学術論文として発表することはできませんし、ヘルシンキ宣言に抵触しているのに、従っている、として論文を書けば捏造になります。
医学倫理を専門にしている先生にこの問題を伺ったことがあります。
その先生は、「戦争の場合とか、高度な政治的判断が必要な場合は、医学倫理を無視して調査をすることは可能」とおっしゃっていました。確かに、福島原発事故は重大な事件であり、倫理を無視した政治的な判断が必要な事態と解釈できるかもしれません。しかしその状況であるならなおさら、少なくとも住民に対して、非常事態だから検査の有害性には目をつぶってデータを集めさせて欲しい、という率直な説明が必要なのではないか、と思っています。あるいは非常事態だったとするならばそれはいつまででしょうか?被ばく線量が低いことが明らかになった今も非常事態でしょうか?そして災害時の研究調査においてこそ、研究者の真に被災住民のためになるように研究を行う行動規範(code of conduct) (Disaster-zone research needs a code of conduct ,Nature 2019.
https://www.nature.com/articles/d41586-019-03534-z )が求められるのではないでしょうか?