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第50回の「県民健康調査」検討委員会で報告されたアンケート調査の結果からわかること

第50回県民健康調査検討委員会では福島県の甲状腺検査の対象者である子どもや若者とその親に対するアンケート調査の結果が報告されました(611554.pdf (fukushima.lg.jp)。公表された検討委員会資料から主な結果をまとめると以下の表のようになります。

このアンケート結果は、福島の甲状腺検査の本質的な問題点を明らかにしています。

①  アンケートの回収率と偏りについて

このアンケートは検査の対象者とその保護者から無作為に計16000人を抽出して行われました。アンケートに回答した人は保護者では約30%ですが、検査の対象者本人では10-20%と非常に低い回収率でした。回収率が低いと対象とした集団の考えを代表していないという問題が生じます(アンケートの回答が住民の意向とは言えない)。さらに例えば18歳以上の対象者本人への質問で、今後の受診意向がある人は40%を超えていますが、これが実際の18歳以上の人の受診率とかけ離れていることから考えて、検査に対して前向きな人がアンケートに答えているという、偏りが生じている可能性があります。このことは検討委員会の中でも中山委員が指摘しています。アンケートの結果を解釈する時に、この点を考慮する必要があると言うことです。

②   検査のメリットとデメリットについて

検査のメリット・デメリットを知っていると答えた対象者は1/3程度、保護者は半分程度しかいません。一方で子ども保護者の7割が子どもに検査を受けて欲しいと考えています。
その理由の上位3つは
1)検査を受ければ安心、
2)早期診断ができる、
3)放射線の影響がわかる、です。
実はこの3つは、福島県・福島医大がパンフレットで説明しているメリットと全く同じです。つまり多くの保護者は福島県や医大が説明するメリットを信じて検査を受けさせたいと思っていることが伺えます。しかし、私たちが以前に指摘している通り、これらの説明はすべて誤りです(詳細はNote 『福島県の甲状腺検査について県の住民に対する『説明』の問題点 』をご覧ください)。
甲状腺検査には1)から3)のようなメリットがあることは証明されていません。検査を受けて何も異常がなければ、その時は安心できるかもしれませんが、それは放射線の影響はないということを意味しているわけではありませんし、何かちょっとした所見や場合によっては甲状腺がんが見つかった時には、検査は不安や恐怖、苦しみに繋がってしまいます。さらに甲状腺がんは早期診断することで、症状が出てから診断されるよりも治療がうまくいったり、生命予後がよいは言えません。保護者の方々は福島県や福島医大のメリットの説明をまじめにしっかり理解した結果、子どもたちに検査を受けさせればいいことがある、と信じ込んで検査を受けさせることに同意しているのです。また、学校で検査を実施しているから受けさせている、と答えた親が半分近くいたことも問題です。学校検診が強制性あるいは義務感を伴っていることを示唆する結果です。
 さらに、今回のようにアンケート調査で、検査のメリットとデメリットを知らない、あるいは正しく理解できていないと思われる結果が得られた場合、第三者機関である検討委員会で、知らない人が多いことに対して説明が分かりづらいということを指摘する委員はいましたが、説明が十分なされるまで、検査の一時中止が検討されないのは問題であると感じました。わからないで受けてデメリットに遭遇した際の責任はだれがとるのかということも議論されるべきだと思います。

③  一部の親は福島県以外から情報を得て検査を拒否している

検査を受けさせない、とした保護者はわずか2%程度しかいませんでした。しかし、注目すべきはそのうちの20%が理由として“過剰診断”(見つける必要のないがんをみつけること)をあげているのです。福島県と福島医大は住民に“過剰診断”と伝えようとしていません。
前述のNoteでも指摘しているように、パンフレットに掲載された情報から過剰診断を正しく知るのは無理でしょう。しかも、福島の検査では対策がとられていて健康被害が発生しないかのような説明までされています。
ちなみに、福島県と福島医大は住民に対して“過剰診断”という言葉は使っていません。このアンケートでも過剰診断という用語は出てきません。これ自体が異常なことです。「検査を受けさせない」とした保護者は、福島県・福島医大以外から過剰診断の情報を得たと思われます。

④  アンケートからわかる福島県の欺瞞

福島県や福島医大が住民に検査の受診を勧奨するような誤った情報を流し、学校でいかにも受けるのが当然のように検査をし、“誤った説明をそのまま信じた”保護者が子どもに害が及ぶことも知らずに子どもたちに検査を受けさせている。行政からの情報では子どもに健康被害が及ぶリスクがあることを知り得ない。これが現在の福島県の子どもたちの保護者が置かれている状況ではないでしょうか。
私たちは福島の住民はいつかこのような実態に気づき、その結果被害者たちが集団訴訟を起こすのではないかと予想しています。その際にはこのアンケートの結果は福島県の瑕疵を問う重要な証拠として扱われるでしょう。


次に今回の検討委員会の議論について考えてみたいと思います。

⑤  私たちが科学的に正しいと思った意見

・中山委員)住民に伝える内容を伝える側が取捨選択してはならない。
今回の検討委員会で、医師会代表の新妻委員から、確率が低いデメリットについては伝えなくてもいいのではないかという意見が出され、座長が十分な議論もなくそれをリーフレットの改訂の際に取り入れるよう発言する場面がありました。そもそも過剰診断のデメリットの確率は決して低いとは考えられませんが、この意見に対して中山委員が明確に反対であると、上記のような意見を述べられました。検討委員が検査のデメリットである過剰診断について、説明しない方がいいと思っているのだとしたら、説明もせず、知らせないままに検査を継続しようとしているのだとしたら、対象者やその家族の受ける「害」を無視し、検査を受けることを誘導していることになります。中山委員が指摘されたように、このような意見は医療者としてあってはならないことですが、この検査が「住民の健康の見守り」や「寄り添い」とはかけ離れたものになってしまっていることを示していると思いました。

・神ノ田委員)科学的エビデンスのないことを伝えるのはいかがなものか。
→神ノ田委員は甲状腺がんのスクリーニングによる早期診断のメリットはないこを指摘した上で上記のように述べられました。科学的に正しい意見だと思いました。しかし、そうであるならば、メリットの誤解がある説明文書を改訂すべきであることを主張してほしかったです。環境省は指摘したので、改善するかどうかは福島県と福島医大の責任と考えているのではないかと感じました。

・熊谷委員)きちんと 伝えたい、その気持ちを持ち続けることも大事。
福島で放射線に関するリスクコミュニケーションに長く携わった熊谷委員ですので、その難しさもご存じですが、きちんと伝える努力を続けなければいけないという意見を述べられました。

⑥  私たちが疑問に感じた意見

・新妻委員)確率が低いことは説明しない方がいい、言いすぎると怖くなってしまう。→前述の中山委員の発言の前段階の発言です。新妻委員にはヘルシンキ宣言をもう一度見直していただきたいです。

・重富座長)検査はがん検診の目的でやっているわけではなく 福島県の県民に不安に寄り添うということでの役割がある→医療行為なのですから、対象者の健康にメリットがあるかどうかを第一に考えるべきです。「お気持ち」で子どもの犠牲を強いてはいけません。この常識がない委員の方が多いように思います。


最後に、非常に悲しかったのは、本来子どもたちの健康被害を防ぐことに積極的であるべき甲状腺関連学会から派遣された先生がこれらの議論に対してまったく“空気”であったことです。学会から何か言われているのでしょうか?