超短編小説 #02
午前1時27分。
こんな時間だというのに、むしむしとした空気は男に纏わりつく。
扇風機はカラカラと音をたてているが、送られてくるのは生あたたかい風ばかりである。
こんな日のことを熱帯夜というのだろう。
その男は、安アパートの一室に寝転がっていた。
決して広くはないが、そこそこに気に入っている、男の下宿先である。
男は疲れていた。
一人暮らしをして二年目の夏。
満員電車に揺られ、さして興味もない授業を眺め、アルバイトをして帰宅する。
やりたいことも見つからず、楽しいこともない日常に飽き飽きしていた。
そろそろ着替えて寝ないとな。
そう思い立ち上がった男の耳に、ふと、低い声が聞こえた。
何と言ったか聞き取れないが、なにかぶつぶつと呟くような声である。
しかし妙だ。
家には自分一人しか居ないし、隣人も既に寝ている時間だ。
呟き声など聞こえる筈がない。
注意して耳を澄ますが、その時にはもう何も聞こえなかった。
男は謎の声を諦め、着替えを始めた。
するとどうだろう、また声が聞こえたのだ。
今度は先程よりも少し大きな声だ。
再び注意を向けると、やはり声は聞こえなくなってしまった。
こうなるともう着替えどころではない。
男の頭の中は呟き声のことで一杯になった。
誰も居ないのにぶつぶつと聞こえ、耳を澄ますと聞こえなくなる声。
これは誰の声なのか、どこから聞こえるのか。
男は考えに考えた。
東の空が白み始めた頃、男は一つの考えに達した。
聞こえてくる謎の声は、男自身の声なのだと。
無意識のうちに漏れ出ていた自分自身の心の叫びなのだと。
「お腹空いた。だし巻きたまごが食べたい。」
その声を認識した時、空腹を自覚した男は既に台所に立っていた。
今日もまた、新しい日が始まる。
こんにちは。西村です。
これを書いていたら本当に空が明るくなっていて恐怖を感じています。
起きたらだし巻きたまご食べます。だし巻き好き。
おやすみなさい。
最後まで読んで下さりありがとうございました。次回もどうぞよしなに。
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