序章

ほんの少し遅いお昼を食べたあと
ふと君に会いたくなった。
会いたくなってしまった。

会いに行っていい?と聞くと
君は『どっちでもいいよ〜!』と言う。
今日はなんだか照れた様子な気がした。
何かあったのかな。

河川敷が僕らのいつもの集合場所
『水切りしよっか!』
と張り切って水切りに最適な石を探す。
なぜか全然普通の石も手に持っている
『私の華麗なるフォームを見よー!』
と一投。
白球ならぬ石球が水面を跳ねる。一回だけ。
『よーし!今のはストライクでしょ!』
彼女の脳内は夏の地区大会のマウンドにいる。


その後は指を使ってプチ視力検査ごっこをした。
相変わらず子供っぽい遊びだ。
『視力めちゃめちゃいいじゃーん!』
とおちゃらけながら笑っている君。
だって全部Cなんだもん。
たまにOを混ぜてくるときもある悪戯心。
そんな所にも惹かれてしまった。

その後はお家デート。
冷えた身体に速攻で
『3月なのに寒いね。』
まるで城主のようにこたつの一部になる君。
少し幸せそう。ほんの少しだけ。


何故だろうか。
こたつで丸くなる君は
より一層愛しく思えてしまう。

あっという間に日は沈み
街の灯が夜を知らせる。

まだほんの少しだけそばにいたいと思うけれど
そろそろ帰らなきゃと彼女は帰り支度を始める。
 
また会えるかなと聞くと

『また会えるよ。まぁ違う私だけどね…!』

聞きたくなかった。
わざと明るく振る舞う彼女の言葉が
逆に現実を突きつけてくる。
僕はこの現実から目を背けたかった
また会えるよだけを聞きたかったのだ。

また明日も明後日も彼女に会える。
だけどその彼女は姿や表情や仕草すべて同じだけれども、同じじゃないことをよく知っている。

『じゃあ明日の私によろしくね〜!』
と彼女はいつもの言葉を残して去っていく。
彼女はきっと慣れっこなのだろう。
一日しか持たない命に割り切っているのだろう。
平凡な日常を過ごし、
そうして一日で命の終わりを迎える。

一度だけ別れ際に泣きじゃくる彼女にあったことがある。

いや、今はその話はやめておこう。
その話はまた今度にしておく。

とにかくこの物語は
たった一日で失われてしまう命の灯火に。
一日だけ生きることを許された彼女に。
恋をしてしまったお話。

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