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中小企業診断士 森健太郎シリーズ⑤まだそこにない財宝※経営法務(知的財産権)

はじめに

この記事は中小企業診断士一次試験合格のため、試験範囲の論点を記憶する目的で執筆した記事です。私は受験前ですので中小企業診断士の資格は取得しておりませんし、登場する人物および会社はすべてフィクションです。
中小企業診断士の有資格者の方や専門分野の知見をお持ちの方がご覧になられていたら、内容の齟齬や間違った理解をしている箇所についてご指摘、ご指南いただけると幸いです。
試験後に時間があれば記事にしたいと思いますが、私は認知特性タイプが言語優位(言語映像型)で文章の読み書きによる記憶や理解を得意としています。ストーリー法とプロテジェ効果を利用した学習の一環として記事を執筆しております。


財宝の地図

T大の土田謙信に森から連絡があったのは、純喫茶ワトソンで会社法の講義を受けてから2週間後のことだった。森から会社法について教わった土田は事業計画を作るにあたって暗中模索状態だった。まだまだ知らなければならないことがある。それに、最後に森に言われた「土田さんは特に」という言葉がずっと気にかかっていた。

待ち合わせ場所は仙台の駅ビルの中のカフェだった。

「ご無沙汰しております。今日は純喫茶ワトソンじゃないんですね?」

土田が声をかけた時、森は水をがぶ飲みして少し具合が悪そうだった。

「どうかしたんですか?なんか具合が悪そうですけど。」

「昨日、クライアントに経済学の講義をしていたら、ついつい盛り上がって日本酒とワインを空けてしまったんだよ。2人で3本もね。」

土田は苦笑いをした。本当に経済学の講義で盛り上がったのだろうか。

「そんな時に僕の講義に時間を取っていただいて大丈夫だったんですか?ご無理なさらなくてもよかったのに。」

「いや、いいんだ。土田さんが悶々としてる姿が思い浮かんだんだ。早いところ知的財産権の話をしておかないと、うっかり製品を作り始めたら大変なことになるかも知れない。」

「大変なこと!?」

「いろんなことがひっくり返るような大変なことがね。まぁ、とりあえず土田さんも何か注文したら?ついでに私の水のおかわりもお願いできるかな。」

話の続きが気になりつつも、土田はコーヒーと水のお替りを注文した。

「土田さん、今日は知的財産権について講義する。聞いたことはあるよね?」

「言葉自体は聞いたことがあります。発明にまつわる何かですよね。うちの研究室の先生が知的財産権について話しているのを聞いたことがあります。」

森は短くうなずいた。

「そうだね。大学の先生は知的財産権を避けては通れない職業の一つかもしれない。知的財産は、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用い られる商品または役務を表示するものおよび営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。特許権、実用新案権、意匠権および商標権を総称して産業財産権と言ったりもする。」

「集積回路の配置や植物まで知的財産権があるなんて…。なんだか、名前がついているもののほとんどが何かしらの知的財産権が絡んでいるような気さえしてきますね…」

「その認識でほぼ合っているかもしれない。厳密にはすべてに知的財産権があるわけではないが、知的財産権を取得するかどうかなどはすべての商品サービスが一度は検討されているだろうな。ちなみに土田さん、君が今飲んでいるアイスコーヒーだけど、君は同じコーヒーを作れるか?」

土田はアイスコーヒーのグラスをのぞき込み、味をもう一度確かめた。

「ん~。変わった味なんかはしないので、原料や焙煎の時間が分かれば作れるかも知れませんけど。」

「作れない。それは氷に茶葉やコーヒーを付着させてうまみ成分を抽出するという特許製法で作られている。物理的には作ることはできるかも知れないが、土田さんはそれを作って販売することはできない。極端に言うとね。」

「特許…。研究室で論文や公募の申請書を書くときに特許の項目が設けられています…。特許って一体何なんですか?」

森は水をごくりと飲み干して目をぎらつかせた。まだ二日酔いは治まっていないらしい。

「特許というのは特許法という法律で定義されている。会社法でも会社に携わる人の不利益を抑止するために作られている。特許法の目的は「発明の保護および利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」だ。 特許法には、発明者に発明という新技術を公開させる代償として、特許権という独占権を与えてその保護を図るという機能と、公開された発明を第三者に利用する機会を与えるという機能がある。この両方の機能を調和させて技術の進歩を促し、産業の発達に役立てることが特許法の目的だ
。」


「発明を保護…。利用する機会…。なんだか相反する要素が合わさっているみたいです。そもそも発明というのはどこからどこまでが発明と呼べるのか…。研究室にいても自分のやっている研究が発明かどうかなんて気にしたことがなかったです。」

「気にした方がいい。発明の定義はもちろんあるのだが、発明に該当しないものを挙げたほうがイメージがつきやすいかもしれない。発明に該当しない者は以下のようなものがある。・ 自然法則でない人為的取決め(商売方法、経済法則、勉強方法など) ・ 自然法則自体(万有引力の法則、エネルギー保存の法則など) ・ いわゆる技能(野球の変化球の投げ方、プロレスの技など) ・ 技術的思想でない単なる情報の提示(デジタルカメラで撮影されたデータ など)、美的創作物(絵画、彫刻など) ・ 天然物の単なる発見などだ。」

「確かに、プロレス技は発明ではなさそうですよね。真似する人は多いですけど。」

「ただし、これは発明に該当しないというだけであって、知的財産権すべてに該当しないというわけではないからね。」

土田は納得した様子でうなずく。

「特許法では、発明を物の発明と方法の発明に分けている。さらに、方法の発明を物を生産する方法の発明と物の生産を伴わない方法の発明に分けている。 1)物の発明:機械、器具、装置、医薬、化学物質、コンピュータプログラム  2) 物を生産する方法の発明:医薬の製造方法、食品の加工方法など 3)物の生産を伴わない方法の発明:測定方法、分析方法などだ。」

「このコーヒーの特許は2)の物を生産する方法の発明にあたるわけですね。」

「そういうことだね。だが、発明のすべてが特許になるわけではないんだ。特許法の目的を考えるとその要件が見えてくるんだが…」

土田はすぐに特許法の目的を思い出した。

「技術の進歩と産業の発展…。」

「素晴らしい。技術の進歩と産業の発展に寄与しない発明は特許権を与えられない。例えば、・個人的にのみ利用される発明(喫煙方法など)・学術的、実験的にのみ利用される発明 ・理論的には可能でも、現実的には実現できないものなんかは、発明だったとしても産業は発展しない。」

「たしかに…。」

「その他に、特許として認められる特許要件には以下のようなものがある。①産業上の利用可能性があること ②新規性があること ③進歩性があること ④先願の発明であること ⑤反社会的な発明でないこと

「そういえば、T大でも研究の軍事利用や危険な薬物などの発明に関するコンプライアンスの研修を受けたことがあります。」

「それは⑤の反社会的な発明でないことの要件に近い話だね。簡単そうに見えて特許権を得るまでは結構いろんなハードルがあるんだ。例えば、土田さんは論文発表をしたことはあるよね?」

「もちろんあります。他の先生と連名だったりしますけど。」

「論文発表した発明は②新規性があることが失われるので、特許要件を満たせない。論文はネット検索すれば内容を知ることが出来るから公になっているものとみなされる。」

土田は研究室での教授の話を思い出していた。

「かなり前の話なんですが、先生が打合せをしている時にこんな事を言っていたんです。「あれは論文発表しちゃったからなぁ」と。あれは、産業に寄与する発明だと気づかずに特許を取る前に論文を出してしまったという意味だったんだ…。」

「そうだ。研究者や開発者はそれが発明かどうかを自分で判断するのは難しい。逆に、自分の中では大発明だと思っていても、然るべき人物が見れば特許要件を満たしていないというケースもある。」

「なるほど…。すべての発明が守られるわけではないということなんですね。」

「土田さん、この文房具を見たことがあるかな?」

土田は目を細めてタブレットの画像を見た。

「初めて見ました。数字とミシン目がついた…付箋ですか?」

「そう。これはエビングハウスフセンと言ってエビングハウスの忘却曲線の理論を応用した付箋だ。」

「そうか。忘却曲線の日数に合わせて何日前に勉強したのかが分かるようになっているんだ。考えたなぁ。」

「これを考えて特許を取得した人は当時、女子高校生だ。」

土田は口に含んだコーヒーを激しく噴き出した。

「あぁ…すみません!あまりにびっくりしてしまって…。」

「このエビングハウスフセンの開発者の女子高生は大学生になって、同時に会社の代表にもなっているらしい。」

社会人の自分たちがやろうとしている事を女子高校生がやってのけた。しかも会社まで設立しているという事実に土田は自分の無知に怒りを覚えた。と同時に、自分たちの製品を世の中に届らるかも知れないという期待も抱いた。

「森さん!知的財産権についてもっと教えてください!これを知らないと僕は大変なことになってしまいます!」

森は水をごくりと飲み干した。

「少しゆっくりでもいいかな。昨日の酒がまだ抜けてなくてね…。」


財宝の資格

「特許の要件については今しがた話をした通りだ。基本的なことだ。次に説明するのは特許申請についての手続きについてだ。特許に限らずだが、知的財産権は弁理士などの資格と経験を持った人が代理で申請するケースがほとんどだが、会社法の機関設計のように発明者自身が制度の仕組みを知っているのといないのとでは準備の仕方や優先順位を間違ってしまう。だから、こ土田さんはおよそで構わないから、この辺の知識を頭に入れておいてほしい。」

「わかりました!って…特許出願ってこんなに複雑なんですか…?それに、提訴とか上告とか物々しい行程まであるんですね…。」

「会社法に比べたら全然複雑じゃないだろ?では、この図で言うと特許権を得るまでの流れは左側から右側へ進んでいくわけだが、一番最初にしなければならないのは出願だ。会社法の登記事項のように必要な情報をそろえないと出願できない。必要な情報とは以下の通り。①願書(出願人・発明者の氏名・名称、住所居所) ②明細書 ③特許請求の範囲 ④要約書 ⑤必要な図面(任意)

「登記事項や定款よりも数は少ないですが、似たような項目が多くてどれに何を書かなかなきゃいけないのか想像がつかないですね…。特に③の特許請求に範囲ってなんのことですか?」

「まぁ、当然そうなるよね。願書は何となくわかると思うから割愛する。②の明細書だが、明細書に記載するのは1)発明の名称 2)図面の簡単な説明 3)発明の詳細な説明だ。」

「素人目線で恐縮なんですが、明細書の記載事項と図面があればどんな発明か分かる気がするのですが…請求の範囲というのがますます気になります。」

森はやっとアイスコーヒーに手を付けた。氷は解けてコーヒーと水の二層に分離してしまっている。

「特許請求の範囲は簡単に説明すると、その発明が何に使われるかを示すものだ。」

「何に使うかって…。それは明細書に書いてあるんじゃないんですか?」

「およその内容は書いてあるし、読んだ人は想像がつくだろう。土田さんはエビングハウスフセンを見た時に何に使うものかすぐわかったかな?」

「数字とミシン目があることくらいしか分かりませんでした。」

「そう。構造を見ただけでは何に使うか分からないんだ。効果的に学習をしたい人にとっては利益につながる商品だが、料亭の板前さんから見ればただの紙だ。」

「それが請求の範囲の意味か…。」

「特許法の目的は技術の進歩と産業の発展だ。エビングハウスフセンを板前さんに使わせても産業の発展にはつながらない。特許庁の審査官は産業上の利用可能性の要件についての判断をする。」

「これは、特許申請に関わらず商品を開発する時に考えなければいけないことですね。」

土田は腕を組んで虚空を睨む。

「特許が取れれば必ずその商品がヒットするわけではない。だが、何かの役に立ったり、便益になり得るということを公的機関からお墨付きをもらうわけだからこれは強い権利だね。」

「これらの書類をそろえてやっと審査に移行するわけですね。」

フフフと森が音を立てずに笑った。

「そうは問屋が卸さない。先ほどの図では方式審査となっているが、ここでは特許の内容を審査しない。出願書類が特許庁長官に提出されると、特許法で定める手続的・形式的要件を満たしているかが審査され、所定の要件に従っていない手続については補正が命じら れる。また、却下処分になることもある。」

「ちょっと待ってください。出願しても審査はされないなら…」

「出願しただけでは審査は行われることはなく、出願審査請求があってはじめて審査が行われる。出願審査請求は、特許出願人に限らず誰でも請求す ることができる。 出願日から3年以内(原則)に審査請求がない場合は、出願は取り下げたものと みなされる。」

土田は眉間の皺をさらに深めた。

「特許要件を満たしていなくて弾かれるなら事情は分かるんですが…。みんな特許を取りたくて出願するんですよね?なぜ段階的にする必要があるんです?それも3年も期間を設けて…。」

「出願した全員が特許を取りたいわけではないんだ。昔は特許出願手続さえ行われれば特許性を判断して特許権を付与するかどうかの審査が行われていたんだ。しかし、出願した後にやっぱり特許を取れる内容の発明じゃなかったとか、特許取ってもしょうがないな、使い道ないなとか思ってしまうような出願や、本当は権利化するつもりはないがライバル会社が出願して特許権を取っちゃうと嫌だからとりあえず。という理由の出願が数多く存在する。権利化する必要が本当にあるかどうかを決める猶予期間を与えて、権利化が必要だと決心したら猶予期間内ので審査を請求させる出願審査請求制度が導入されたんだ。」

土田はタブレットの画面を見て、目を細めた。

「ん?「2 )出願人に限られず、審査請求は誰でも可能」…?これはどういうことですか?」

「後から詳しく説明するけど、特許を取りたい人と特許を使いたい人が違うというパターンが存在するんだよ。例えば、出願公開という制度がある。出願日から1年6月経過すると、特許出願を特許公報に掲載することにより出願公開される。出願公開は、第三者の研究・投資の重複を防止し、社会のさらなる発展を促すが、出願人にとっては、他人の模倣というリスクが発生する。このため、 出願公開後に第三者が業としてその発明を実施した場合、その特許出願者は、その 第三者に対して補償金を請求することができる(=補償金請求権)。また、補償金請求権を早期に得るために、出願人の任意での出願公開請求が可能となっている。」

「また、なんでそんなことをする必要が?権利がない発明を公開するということですよね?」

「出願公開の目的は2つ。①発明や特許申請が重複して行われることを防ぐこと。②出願公開された発明をベースとした、新たな発明を促すこと。特許要件の一つに先願の発明であることという項目がある。出願公開されることで、「出願しようと思ってたけど同じ発明がもう出願されるからやめとこう」ということになり、重複を防ぐことになる。これが①の理由。②はそのままの意味だ。特許法が技術の進歩を目的としている。「公開されている技術よりももっと良いものを作ってやろう」という発明者が現れれば技術の進歩につながるからね。」

「でも、先ほど仰られたように、模倣されるリスクは大きいですよね…。自分が開発した技術が特許を取る前に真似されるかも知れないし、もっと良いものを他人が作ってしまうかもしれない。」

森は小さくため息をついた。

「たしかに土田さんの言う通りだ。出願公開は実施するか否かや公開のタイミングなどかなり難しい。それをカバーするための補償金請求権ではあるんだけどね。」

「次は土田さんの大学の仕事や会社の設立にも少し関係するかも知れない話題だ。」

「え?」

「特許出願前に国内または国外で公然と知られた発明は、新規性を喪失したものとされ特許要件を欠くことになる。しかし、新規性を喪失したものについて、公表日から1年以内に例外規定の適用を受けたい旨の書面などを特許出願と同時に提出、かつ出願日から30日以内(原則)に公表などの事実を証明する書面(証明書) を提出すれば、新規性喪失の例外として、特許を受けることができる。」

「特許出願前に公然と知れた発明ということは、すでに商品化されたものを遡って特許を取るということですか?」

「ざっくり言うとそういうことだ。例えば、土田さんが文房具のメーカーを設立して商品を販売する。その商品は国内外で大ヒットした。発売してから商品の構造や使用している材料などの特許の要件を満たしている可能があった。特許を出願して公表などの事実を証明する書類を作成した。そうすると、すでに公開されている新規性が無いものでも特許が取れる可能性があるんだ。」

「この規定があれば、もし特許要件を見逃していたりしても安心ですね。」

「まぁ、私に言わせれば商品を開発中の段階から特許要件を満たすかどうか検討して進めた方が早いとは思うけどね。公然と知れた発明というのは大学の論文も同じだ。論文発表後に上記の期間内に対応すれば特許技術として認められる可能性がある。」

「たしかに、これは私の仕事と起業に大いに関係ありですね…。本当に知っておいてよかった…。」

土田は深く息を吐きだした。


財宝の権利

「次に新規性喪失の例外と同じく重要な、国内優先権制度について話すよ。すでにされている自己の特許出願または実用新案登録出願(以下、「先の出願」 という)を基礎として新たな特許出願(実用新案登録出願)をしようとする場合に は、先の出願の日から1年以内に限り、その出願に基づいて優先権を主張することができる。これを国内優先権という。」

「先の出願と後の出願?別な発明で2回出願する人がいるんですか?それに優先というのはどういう意味なんでしょうか?」

「さっき請求の範囲について説明したよね?技術は同じでも使う用途が違えば範囲の外側になる。例えば、基礎となる先の出願の請求項に「保温容器」と記載し、その実施例が「ホットコーヒーを一定の温度に保てること」であれば、請求項の「保温容器」を「高温の液体や個体の保温」に限定せざるを得なくなる。しかし、優先権を主張して「アイスクリームを溶かさずに保存できること」「冷たい麦茶を4度以下に保てること」などの実施例が追記された場合、「保温容器」の冷温機能の全範囲を包括した権利を取得することも可能となる。」

「そうか。国内優先権を使うことで包括的に広い範囲で特許を取得できるということですか…。基本的な質問なんですが、なんで国内優先権って言うんですか?」

森は腕を組み少し考えるような仕草をした。

「これも後ほど詳しく説明するが、特許というのは海外の特許もほぼ同時に出願することが出来るんだ。そうなった場合、国内で先に出願した発明に対して優先権が与えたれるからなんだ。あ、ちなみに、先と後の発明者は同一でなくてはいけないというルールもあるよ。」

「そういうことだったんですね。よくよく考えたら、日本で作ったものが海外で真似される可能性だって大いにありますもんね。」

「そうなんだ。あと知っておいてほしいのは特許の権利と活用についてだ。特許権には特許技術を実施する権利がある。」

土田は意味が理解できずに首を傾げた。

「あの…。それって当たり前の事じゃないんですか?自分で発明して特許を取ったものを自分で実施するのって。」

森は小さく鼻から息を出した。

「フロッピーディスクを発明したドクター中松はフロッピーディスクを作っているか?」

土田は一瞬で概要が分かった。

「特許法は特許権の効力について「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」と規定している。権利を専有するとは、第三者の侵害を排除し、特許発明を独占的・排他的に実施できることを意味する。

「つまり、特許権者以外は特許の技術を使う権利がないと?」

「その通り。発明には3つの種類があると説明したが、それぞれに権利がある。」

「権利がないと言っても、知らずに同じものが出来てしまうことや、真似していても白を切ることだってできますよね?」

「ないことはないだろうね。でも、権利の侵害には違いない。そのために、 特許権者(他の産業財産権者も同様)は、特許権の侵害者に対し、差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、信用回復措置請求をする権利がある。」

「差止請求…。ちょっと待ってください。大学の研究などはどうなるんですか?」

「他人の特許発明の技術的効果を試験研究するための実施は、形式的には特許権侵害にあたるように見えるが、むしろ技術を高め、産業を発展させる。そこで、特許法は試験研究の場合には、そもそも特許権の効力は及ばないとしているんだ。」

「それが技術の進歩に寄与するなら、特許技術について研究をしても問題ないということか。会社法よりも入り組んでいるけど、これを知っているのといないのでは大違いですね。」

目の前で森が大きく背伸びをして、首を回していた。何やらメニューを見ている。

「なんか、お腹減ってきたな。茶そばとかないかなぁ。」

土田をいくつもの不安が襲っていた。


財宝の使い方

森は抹茶のかき氷を注文し、ん~とか、あ~とか言いながらかき氷を食べていた。

「やっぱり二日酔いには緑色の食べ物にかぎりますな~。」

「二日酔いのところ申し訳ないのですが、特許の権利についてまだ曖昧な部分が多くて、そのあたりを教えて頂いても…」

「あ、そうだったね。かき氷を食いながらで恐縮だけど。ではまず、特許の活用のさわりの部分を説明するよ。特許というのは権利だから、他人に譲渡(贈与・売 却)することができる(請求項ごとの分割移転は不可)。また、相続・合併などによる承継の対象になる。特許権の移転の効力は、相続その他の一般承継の場合を除き、登録により発生する。 なお、特許を受ける権利には登録制度はない。」

「最後の登録によりっていうところがよく分からないんですが、どういうことですか?」

「これは特許庁への登録と言う意味だ。少し見づらいけども、下の書類が特許庁へ提出が必要なんだ。住所や株式同様に特許権も移転する際に登録がいる。この手続きをしないと特許権は行使できないということだね。」



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