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中小企業診断士 森健太郎シリーズ① デッレ・アルピの罪人※経済学・経済政策(財市場)

はじめに

この記事は中小企業診断士一次試験合格のため、試験範囲の論点を記憶する目的で執筆した記事です。私は受験前ですので中小企業診断士の資格は取得しておりませんし、登場する人物および会社はすべてフィクションです。
中小企業診断士の有資格者の方や専門分野の知見をお持ちの方がご覧になられていたら、内容の齟齬や間違った理解をしている箇所についてご指摘、ご指南いただけると幸いです。
試験後に時間があれば記事にしたいと思いますが、私は認知特性タイプが言語優位(言語映像型)で文章の読み書きによる記憶や理解が得意としています。ストーリー法とプロテジェ効果を利用した学習の一環として記事を執筆しております。


伊太利

株式会社ベックスワイナリー代表の柿谷と中小企業診断士の森は、仙台市内のシックスマンコンサルティングの事務所でなぜかサッカーの欧州選手権の中継を見ていた。

「いやぁ~スペインのペドリすごいですね~。最近の選手は走れるし足元もうまいし、動きがしなやかで頭もいい。EUROはW杯やクラブとまた違った熱さがありますよね!」

「森さんもサッカーがお好きとは知らなかったです!好きな選手やチームはあるんですか?」

柿谷も高校までサッカーの経験があった。

「シックスマンコンサルティングというのはバスケットボールの用語なんですが、実はサッカー好きでC級コーチライセンスも持ってるんです。ずっと応援しているチームはないんですが、2000年前半のイタリアのチームは華があって好きですね~。」

「わかるなぁ。我々の年代は特にそうですよね。あのカテナチオの堅守速攻のスピード感がいいですよね。」

森は柿谷の方を向いて目を大きく見開いた。

「そういえば柿谷さんもサッカーをやられてたんでしたね。通りでお詳しいわけだ。サッカーのお供といえばやっぱりビー…」

「森さん、ビールはやめておきましょう。サッカーよりも経済学のお話が聞きたいので…。」

「え?あ、そうですか?」

森は本当に残念そうな顔をした。こいつは仕事をする気があるのだろうかという疑念が柿谷の脳裏によぎった。

「イタリアのサッカーで思い出したんですが、ファンタジスタと聞いて思い浮かぶ選手は誰ですか?」

「私の世代はデルピエロですね。アレッサンドロ・デルピエロ。」

「その名前が出てくると思ってました。私も1番好きな選手です。ではデルピエロゾーンという言葉も聞いたことは?」

「もちろんあります。左45°の角度から右足で確実に決めるデルピエロの得意なエリアです。」

森は笑いながら小刻みにうなずいた。

「実は経済学にもデルピエロゾーンがあるんですよ。」

「え?聞かせてください!」


ワールドクラス

「デルピエロゾーンの話をする前に、経済学の大分類についてお話したいのですが、前回お話した余剰分析や消費者の動向などを経済学ではミクロ経済学、この後お話する財市場や45度線分析などはマクロ経済学と言われる分野です。ミクロ経済学が天皇杯だとすると、マクロ経済学はワールドカップの話なんですね。」

「なんか無理やりサッカーに結び付けようとしているように見えますが…。」

森は柿谷の指摘を無視して話を続けた。

「マクロ経済学では、ミクロ経済学とは異なり、主に一国全体の集計量を分析対象とします。扱われるものには、GDP、総消費、総貯蓄、総投資、国際収支などの集計量と、物価水準、失業率、経済成長率などの数値がある。マクロ経済学では、こ れらの数値を通して景気循環、失業、経済成長などの要因およびそれらに対するあるべき政策の分析を行います。」

「たしかに市場均衡や余剰に比べてスケールが大きいですね。」

「そうなんですが、マクロ経済でも市場という言葉があります。」

「ここで注意したいのは、ミクロ経済の独占や寡占市場のように市場が分かれているわけではないということです。財市場、貨幣市場、労働市場のそれぞれが連動して影響を与え合っているんです。」

「ラ・リーガ、プレミア、Jリーグ。それぞれの移籍市場が絡み合っているような感じですね。」

「柿谷さん、なんでもサッカーに結び付けるのは良くないですよ。こっちは真面目にやってるんですから。」

柿谷は若干憮然とした表情になった。

「で、マクロ経済の流れをざっくり図式にしたものがこれです。」

「あ、45度線分析というのがありますね。経済学のデルピエロゾーンは財市場の45度線分析のことだったんですね。」

「先に種明かしをしてしまうとそういうことです。後ほど詳しく説明しますが、45度線というのが財市場においてある一定の基準になるものです。あと、これも後ほど説明するのですが、マクロ経済におけるお金の流れを頭に入れておいてください。」


「中央銀行?これはまたスケールが大きいですね。まるでFIFA…」

「………。では、まず初めに財市場について簡単に説明します。 財市場は財・サービスの市場である。まずは、財・サービスの需要と供給につ いて確認し、それらが一致する均衡について見ていく。 より豊かな国(経済成長)を目指すためには、GDP(国内総生産)の拡大が課題となります。そのためには、財・サービスの需要と供給を増加させ、それらが均衡す る(需要量と供給量が一致する)GDP(国内総生産)を拡大させるにはどうしたらいいかを考えるんです。そのためには一国の国民所得(総生産、GDP)の水準がどのように決定されるのか、また、それが政府の政策からどのような影響を受けるのかを分析することからスタートします。」

「規模が大きな話ですが、何事も分析することから始まるんですね。」

「そうです。はじめに、GDPの中で最も高い割合を占める消費について見ていきます。消費関数というのですが、これらを総称してケインズ理論やケインズ経済学と言ったりします。「市場経済は放っておけば安定する」と主張した(古典派)経済学の父、アダム・スミスに対し、ケインズは「放っておいたら市場経済は不安定になる」と考えて有効需要の創出を提唱しました。ニューディール政策の基になった理論です。」

「ケインズってまさか、イングランドのハリー・ケイ…」

「ではないですね。消費の大きさは、 租税の有無や種類によって変化します。したがって、政府部門(租税)を考慮しない 場合、政府部門(租税)を考慮する場合(定額税)、政府部門(租税)を考慮する 場合(定率税)の3つに分けて確認していきます。」

「失礼しました。続きをお願いします。」

「結構です。まず、租税を考慮しないケースについて見ていきます。 消費水準がどう決まるかについては諸説あるんですが、ケインズ型消費関数は、今期の消費は、今期の(絶対的な)所得水準に依存すると考えるものであり、C を今期の消費Y を今期の国民所得(Yield)とすると、以下のような式になります。ここでの「政府部門を考慮しない」とは、租税を考慮しない(税金の支払いはなく、所得のすべ てを処分することができる)ということを指しています。」

柿谷は初めて見る式と単語を凝視した。

「このc:限界消費性向とC₀:独立消費というのは何ですか?二つともCがついて紛らわしいですね…。」

独立消費は基礎消費とも言います。生存に最低限必要な消費水準を表しているんです。c:限界消費性向というのは所得(国民所得Y )が1単位 増加したときの消費の増加分を表します。」

「なるほど。今期の消費を割り出すには、所得によって増加した消費と最低限の消費を足せばいいということか。」

「その通りです。たとえば、c=0.8とすると、所得(国民所得Y ) が100万円増加したとき、80万円を消費に回す(残りの20万円は貯蓄に回す)と いうことを表します。このように、得た所得の使い道は消費か貯蓄するかの2択となるんです。 ただし、税金を考慮する場合は、所得から税金の支払い分を除いた金額を消費か貯蓄に回すということになります。これをグラフにするとこんな具合になります。」

「限界消費性向の率によって、所得の増加による消費の増加が違うということなんですね。この平均消費性向というのはなんですか?」

「さすが、よく見てますね。平均消費性向というのは、国民所得Yに占める消費(独立消費C0を含む)の割合のことです。」

「限界消費性向を考えなかった場合の最低限の消費ということなんですかね。」

「そのような認識で大丈夫です。国民所得 Y の増加とともに平均消費性向は 低下します。所得がゼロであってもC0だけの消費が行われます。生きていかなければなりませんからね。所得がゼロでも消費を行うということは、貯蓄を取り崩すか、借入れをすることになります。 貯蓄は所得のうち消費されない部分、すなわち「国民所得Y-消費C 」です。 したがって貯蓄Sは下の図のようになります。」


「うわぁ。なんか私が苦手な式が出てきました。」

「一次方程式は久しぶりに見たかも知れませんが、所得から消費を引いたものが貯蓄と覚えておけば大丈夫ですよ。(1- c )は限界貯蓄性向とよばれ、国民所得が1単位増加したときの貯蓄の増加分を表わしています。所得がゼロの場合は貯蓄が-C₀と負となります。先ほども言ったように、食つなぐために借入が必要だからですね。なお、国民所得 Y に占める貯蓄の割合を平均貯蓄性向といい、原点と貯蓄曲線上の点を結んだ直線の傾きで表されます。」

「1-Cが限界貯蓄性向だから貯蓄が0の時はマイナスになるということですね。こんな風に右肩上がりで所得と貯蓄が増えていけばいいんですけどね笑。」

「本当ですね。ただ、現時点でのケインズ消費関数では投資という概念がないので、あくまでもモデルだと思っていただければ。それでは、サクッと課税を考慮したケースを見ていきます。余剰分析でも同じような話題があったかと思いますので、そんなに違和感はないはずです。」


「グラフにすると分かりやすいですね。課税された分、国見所得Yが減るから消費Cも当然減るわけですね。」

「これは余談ですが、タバコ税や酒税を増税すると、政府の税収は下がります。」

柿谷は眉間に皺をよせて森を見た。

「どういうことですか?政府は税収を多く得るために増税しているじゃないんですか?」

「そうです。でも上のグラフを見てください。課税されると消費が下がりますよね?食品やスマホなどの通信費は生きる上で必要な財なので消費への影響は少ないのですが、タバコやお酒は高くなると買わなくなる。買わなくなるので税金が入ってこなくなる。というカラクリです。」

「なるほど。税収が減ったとしても、国民の健康寿命が延びるのであれば結果的にはGDPを増やすことになるのかも知れませんね。」

「鋭い読みですね。実際にところは分かりませんが、ベックスワイナリーもお酒ではあるので、嗜好品以外の切り口も考えてみてもいいかも知れません。ということで、コーヒーでも飲んで次は供給の話をしていきますよ。ここからいよいよデルピエロゾーンに近づいていきます。」

供給

森は柿谷と自分のカップにコーヒーを注いだ。

「先ほどは国民所得と消費、貯蓄について説明しました。次は総供給についてです。その前に国民所得について補足します。国民所得では均衡国民所得というものがあって、財市場の需要と供給が均衡する国民所得のことです。」

「需要と供給が均衡するというのがいまいちイメージできないのですが。」

柿谷はコーヒー飲んで考えていた。

「先ほど、消費についてお話しましたが、消費しているということは財・サービスを購入しているということなので、その分供給されているということになります。ですので、総供給は、一国全体における財・サービスの供給(生産)の総額だということです。広義の 国民所得は国内総生産(GDP)と捉えることができるため、総供給YSは国民所得Y に等しくなります。たとえば、国内総生産(GDP)が500兆円のとき、生産された 500兆円分の財・サービスが供給されるため、国内総生産(GDP)と総供給YSは 等しくなる。というモデルですね。」

「貯蓄もカウントするんですか?貯蓄しただけでは財は供給されませんよね?」

「厳密に言うとそうなんですが、いつか消費をするために貯蓄をしているわけなので、将来的には供給に変わるものと捉えます。」


「こ、これはまさしく…デルピエロゾーン…。」

「そうです。経済学におけるデルピエロゾーン、すなわち45度線とは国民所得Yと総供給Ysが均するラインのことを言います。」

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