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エンプラ対応3Dプリンタの作り方

エンプラ(エンジニアプラスチック)は耐熱性、強度などPLAやABSよりも優れた材料です。それらのフィラメントも購入可能です。しかしそれを出力するための3Dプリンタは業務用になり高価です。そこでDIYで改造してエンプラを出力できるプリンタを作る紹介です。

POM

今回は特にPOM出力を目的にします。POM(ポム)はジュラコン、デュラコン、ポリアセタールと様々な呼び方がある材料です。自己潤滑性があり歯車やカム、軸受などに使われます。すべすべしてるので摩擦が生じる場所に適しています。
しかし、この材料は熱収縮が大きく出力中に反ってベッドから剥がれます。
市販の業務用3DプリンタでもPOMを出力可能となているものは数が少ないです。

基本コンセプト

造形エリアを囲ってチャンバーにしてそのエリアを100℃付近まで加熱します。そのために内部部品を耐熱性の部品に交換、ヒータの設置、チャンバー内の空気を循環させるファンの設置、チャンバー壁の設置、といった内容になります。

改造した結果

先に改造した結果から書きます。
本体下部のヒータ温度を120℃にセットすると庫内の温度はベッド付近で90〜100℃。トップハット上部で80℃まで加熱が可能になっています。
この条件でエンプラのPOM、工業用フィラメントのPolyMaker ポリカーボネイト PC-FRの出力を確認しています。
次の画像はPOMフィラメントで3D Benchyを出力した様子です。糸引きが見られますがフィラメントをドライヤーで除湿すると改善します。モデル右側の円柱はレイヤーが冷却するための時間を確保するためのクーリングタワーです。(これがないと細い部分、特に煙突の形状が崩れる)

POMフィラメントで3D Benhyを出力

改造のベースとなる機体

耐熱性を考え3軸の制御モータをチャンバー外に設置可能なXY Core方式のVoronを選びました。チャンバーが大きいと加熱が大変そうなのでサイズが小さいVoron 0.1を選択しました。

普通にVoronを作る

まずは普通にVoronを作りました。それについてはこちらの記事を参照してください。

加熱チャンバーの構造

一部ですが以下のような作りになります。底にヒータを入れるスペースを作ってあります。プリンタ右側にダクトを取り付け、ダクトの下にファンを配置。上部から空気を吸い、下部からヒータに向かって空気を送り出します。

以下、そのための改造の内容になります。

コントロールボードを外部に設置

標準では底や背面に基板がついてます。コントロールボード(RasPI、BIGTREETECH SKR MINI E3 V3.0)をプリンタ本体の外部に出せるようにセンサーやステッピングモータのケーブルを延長しました。

プリンタ本体からケーブルを延長して基板を外に出す

この段階で全てのケーブルを延長しましたが、後にホットエンドファン、パーツファンは別のものにしたので延長する必要もなかったです。

金属パーツに入れ替え

Voronはパーツを3Dプリンタで出力して作りますが、それでは熱で壊れてしまうので全てのパーツを金属製に入れ替えました。必要な部分を購入していったので無駄な買い物もしてしまってます。最初から金属パーツ一式を買ってれば良かった
以下が購入したパーツです(無駄を含む)画像はAliExpressの購入履歴のスクリーンショットです。

https://ja.aliexpress.com/item/1005004406851075.html?
https://ja.aliexpress.com/item/1005004251753946.html?
https://ja.aliexpress.com/item/1005004126605113.html
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https://ja.aliexpress.com/item/1005003658117204.html
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それ以外にリニアレールを取り付けている部品をアルミ製にしてあります。これは自分で作りました。ノーマルの3Dプリンタにナットを埋め込んだものでは熱で緩んでリニアレールがずれてきます。これもAliExpressで売ってるので買った方が簡単です。自分で作っても良いけど、M2のタップ面倒。
とりあえず以上で内部パーツの金属化は完了です。

コントロールボードとチャンバーヒータのコントロール部

外部にコントロールボードとチャンバーヒータの制御部分をまとめます。3Dプリンタでケースを作ってボックスを作りました。

下に電源、上にコントロールボード
コントロールボードの入ったボックス

正面には温度制御のパネル、スイッチが2つあります。
スイッチはヒータ用、庫内ファン用と分けています。使い始める時には2つ同時にONにしますが、OFFにする時には先にヒータをOFFにしてある程度冷えてからファンを切っています。

チャンバーヒータとファン

ヒータは坂口電熱の600Wのスペースヒータを使ってます。

https://www.monotaro.com/p/7075/5712/

このヒータを放熱器で挟んで3Dプリンタの底に配置します。そこにファンからの空気を送り込んでチャンバー内で空気を循環させます。
ヒートシンクはこれ

サイズが大きかったので適当にカットして使ってます。

放熱器の中にヒータをはさむ

ヒータのコントローラはREX C-100を使ってます。

https://amzn.asia/d/5uHebts

同じようなタイプがたくさんあるので使ってるのがこれかどうか?わかんないですがこんなやつです。

ファンはスペースの都合で「クロスフローファン」を使ってます。

https://ja.aliexpress.com/item/1005004019530336.html

温度制御はヒートシンクに熱電対を固定してヒートシンクの温度が一定になるようにしています。本当はチャンバー内の温度で制御をかける方が良いのでしょうがチャンバーのどの部分で測定したら良いのか?チャンバーの不具合で以上加熱が起きたら?と不安だったのでヒータに近いヒートシンクで制御を行ってます。

ヒートシンクに挟んだ温度センサー
空気の流れ

本体の底にヒータ。このヒータは固定はしていません。置いてあるだけで不都合はなさそうです。本体右側上部に空気の取り入れ口があります。したの画像のタイミングベルトが通っているところ。そこから底のファンにつながって熱い空気を循環させるようになっています。

庫内ヒータ

チャンバーの板

チャンバーの板は5mmのケイカル板を使ってます。

ケイカル板はノコギリで簡単に切れるので加工は簡単です。これと一部の板の固定には耐熱性の接着剤を使っています。

この接着剤の耐久性は?今のところはまだ問題は起きてません。

ケイカル板とアルミフレームの固定はM3のネジで固定しています。ただ、熱の影響なのかネジが緩みやすいので今後何らかの改善をします。

エクストルーダ

金属製に入れ替えてます。

テストしていたところエクストルーダの内部でフィラメントが溶けてフィラメントが送れなくなるトラブルが発生しました。空冷では冷却が追いつかなくなりホットエンドの熱がエクストルーダまで伝わってしまっていたようです。空冷では内部の熱された空気を使っているので冷却に無理がありました。そこで水冷のホットエンドに交換します。空冷のためには以下の物を購入しました。

https://ja.aliexpress.com/item/32850217541.html


https://ja.aliexpress.com/item/1005004801670916.html

L字型のコネクタは要らなかった… というかネジのサイズが違った…

水冷のホットエンドはこんな感じです。

Voron0.1のホットエンドの取り付けは上部のネジを使います。(ここ不便!)
Voron0.1の最初の設計ではV6hotendに合わせて円形の窪みがあります。それが邪魔になるので取り付け部分が平になるようにフライス盤で削りました。

水冷のホットエンドに入れ替えて水のチューブを入れてこんな感じです。この時にはまだパーツ冷却ファンをつけてますが、この後に熱で壊れてしまいました。

冷却液はこの後不凍液(赤)にいれかえてます

パーツ冷却ファン

POMの出力ではパーツ冷却ファンをOFFにするとさまざまなサイトに書かれています。しかし出力の様子を見ているとノズルから出たPOMが固まる前に次のレイヤーを出力している場合があり、そこから形が崩れるケースが見られました。パーツ冷却ファンが必要となりました。しかし熱でファンが壊れてしまったので外部から空気を送る方法にします。

https://ja.aliexpress.com/item/1005001870469069.html

24Vの空気ポンプを使います。電流が0.5Aなので直接コントロールボードに繋いでいいのか不安だったのでSSRを入れています。SSRの入力をコントロールボードのパーツファンの端子に繋いでいます。これでPWMで空気ポンプを制御できています。

3Dプリンタで作ったポンプのマウント

庫内へはチューブで空気を送り、2つに分けてノズルの左右から出しています。空気の吹き出し口はVoronの最初のものを使っています。

水冷+冷却ホース

水冷+パーツ冷却ファンの外部化によりツールヘッド部分への配線はヒータ、センサ、エクストルーダのステッピングモータ用と電気配線の数は減っています。ただチューブが4本入ることになりました。

エクストルーダ付近を正面から見たところ

透明なチューブがパーツ冷却用の空気用。赤いチューブがホットエンドの水冷用です。

以上でハードウェアの改造は終わりです。
ホットエンドの水冷は電源アダプタから電源を入れて常時100%で動かしています。コントロールボードからの制御はしていません。庫内ヒータも同様です。電源ONにして温度制御の温度を見て印刷を始めるようにしています。
不便なのは印刷終了時に庫内ヒータが自動でOFFになりません。これはそのうちなんとかしたいと考えてます。

とりあえず3Dプリンタ本体の改造はこんな感じです。POMフィラメント出力のセッティングについたはまた書きます。

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