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大学院進学者(特に研究者志望者)へのアドバイス

あくまでも小林の経験に基づく情報・アドバイスですので,参考程度にしてください。従う必要はまったくありませんし,従ってうまく行かなかったとしても責任は取れません(ごめんなさい)。
(2022/03/19追記)なお,心理学分野を想定したアドバイスとなります。

これはなに?

大学院進学者,特に研究者(大学教員,研究所所員,企業研究員など)に将来就きたいと考えている学生の方に向けて,研究者・教員として過ごした経験を元に参考となるであろう情報を箇条書きの形で記載しておきます(注1)。優先度が高いほど上に来ていると思ってください。

1. 大きな問いを持とう

大きな問いとは数年もしくは数十年かけても明らかにしたい研究上の問い(research question)です。例えば,「なぜヒトに忘れるという機能が存在するのか」といったものです。少なくともこの問いに対する答えは実験を数回やるだけでは得られません。そのため,大きな問い自体は個々の実験計画の立案に繋がることはないでしょう。では,なぜ,このような大きな問いを持つ必要があるのでしょうか。それは,大きな問いとは研究者として自身を形作る土台となるからです。比喩的に表現すれば,「研究という大海原を航海するための羅針盤」とも言えるかもしれません。人によっては大きな問いを明らかにするために研究者となったという人もいるでしょう。
大きな問いはより細分化した小さな問いを生みます。例えば,「なぜヒトに忘れるという機能が存在するのか」という大きな問いからは「ネガティブな記憶を忘れることが重要であれば,可能なのか?」や「すべての記憶に対して等しく忘却は生じるのか?」といった様々な問いが生まれます。そして,このような小さな問いは具体的な実験計画の立案に繋がっていくでしょう。大きな問いを明らかにするために,少しずつ小さな問いの答えを探していくというのが研究活動だと考えています。
研究を続ける中で,いまやっている研究に対して悩みや迷いが生じたり,うまくいなかったりするということは避けられませんが,そのような時こそ,自分の原点である「大きな問い」からいまやっていることを捉え直してみるとよいかもしれません。

2. 論文が出版されるまでが研究

「研究計画の立案,実験・調査の実施,データ分析,論文執筆,論文投稿,論文出版」のすべてが終了することが研究の1サイクルです。データ分析で終わってはいけません。自分が知りたいことはデータ分析をすれば,ある程度わかってしまうため,そこで満足してしまいがちです。しかしながら,研究者として生きていくためには論文を出版し,自らが当該研究領域を切り開いていくことを世の中に示さなければなりません。
さらに,現在のところは,研究者としての外部評価の最も重要だとされる指標は業績となっているため(注2),論文を出版しなければ研究者としての生き残りが難しいでしょう。気をつけたいのは,論文数が重要だとは限らないことです。捕食雑誌(あってないような査読を行うことで掲載料を搾取するような雑誌)への投稿など,研究者として信頼を失わないように注意しつつ,論文を書いていくことが求められます。いい研究をして,いい雑誌(注3)に論文を掲載することを目指しましょう。
論文を出版するためには,実験・調査の出版を意識しながら研究を進めることが非常に重要です。このテーマや方法は論文として出版されるのだろうかを考えて,研究計画を立てましょう。ここで注意してほしいのは,「論文のための研究をしましょう」(≒論文になりやすい研究をしましょう)という意味ではありません。あくまでも「論文化を意識して研究をしましょう」という意味です。あくまでも「研究が先,論文は後」です。論文になるかを意識すると,自分の研究が対外的に公表できる水準に達しているのかという批判的視点で研究を進めることができます。それによって,仮説や予測の根拠を明確にしたり,方法を精緻化したり,わかりやすい図表を作成したりなど,様々な面でのメリットが生まれます。
論文化に向けた研究の実施のためには,事前登録研究もオススメです。明確な仮説や予測,方法の設定がなければ事前登録が出来ないため,自ずと研究計画の精度が高くなります。

3. メインの研究とサブの研究

大学院で学位を修得するには,修士論文にせよ,博士論文にせよ,基本的には1つの研究テーマを深掘りした研究を行います。いくら研究業績があっても,一貫したストーリーを持った学位論文を執筆できないと学位を取得することは難しいでしょう。そのため,一貫したテーマで学位取得に関わるテーマを設定し,メイン研究を進める必要があります。
大学院では,基本的にはメイン研究を中心にすべてが進みますが,メイン研究に全力を投入するのではなく,サブ研究(side work)もぜひ行ってみましょう。メイン研究とある程度近接したテーマをサブ研究に選ぶのがオススメです。例えば,忘却の研究をメインとして,虚記憶の研究をサブにするなどです。
サブ研究を行うメリットはいくつかありますが,サブ研究はメイン研究のバッファーとして位置づけというメリットがあります。再現性問題を考えると,メイン研究に選んだテーマ自体に再現性がないという可能性もありえるわけです。さらに,現在の情勢を考えると対面でしかできない実験ができなくなる可能性もあり,メイン研究一本で進めることは少しリスクがあります。リソースをサブ研究にも割くことで,メイン研究がうまく行かなかったとしても,サブ研究がうまく言っていれば,サブ研究をメイン研究として扱うことで,学位論文を執筆することも可能でしょう。そこまでいかなくても,メイン研究の気分転換にサブ研究を進めるというのも気分転換になるので,よいかもしれません。ただ,サブ研究は1テーマ,もしくは2テーマ程度に抑えましょう。メイン研究よりも単発のサブ研究の方が楽しくなってしまい,一貫したストーリーの学位論文が書けないということにならないようにしましょう。
また,より長期的な視点に経ってみると,学位を取得した後に学位論文のテーマ以外の研究をやりやすくなりますが,その時にサブ研究があると研究の幅が広がります。

4. 様々なツールを活用しよう

研究を行う上で様々なツールを利用して,できるだけ効率的に研究を進めましょう。新着論文のチュックにはGoogle scholarのアラート機能やよく読む雑誌のRSSをRSSリーダーで受け取るなどのサービスを使うと便利です。論文を読んだり書いたりする際には文献管理ソフト,英語関係のツールも活用しましょう。分析や論文執筆においては統計分析ソフトウェア,実験ソフトウェア,論文執筆ツ—ルなども有用です。以下にオススメを挙げておきます。

  • 論文情報入手

    • RSSリーダー(Feedlyなど)

    • Google scholarのアラート

  • 文献管理ソフト

  • 英語関係のツール

  • 統計分析ソフトウェア

  • 実験ソフトウェア

  • 論文執筆ツール

注1:テニュアの研究者からの経験に基づいたアドバイスというのは,往々にして「生存者バイアス」がかかっています。「自分がうまくいった例を語っているだけ」ということですね。このポストは自分がこうしていればよかったという要素も入っているので「生存者バイアス」だけではないと考えていますが,「生存者バイアス」は完全に排除できてはいないでしょう。
注2
:論文業績や学会賞などに(過度に)依存したこの評価方法には様々な問題があることが指摘されており,業績以外の指標を活用することが今後の課題とされています。残念ながら,そのような未来はまだ実現していないため,論文業績が重視されている現状での過ごし方としてこのポストを書いています。
注3:いい雑誌とはImpact Factorが高い雑誌という意味ではなく,自分が好きな雑誌やいつも読んでいる雑誌などの載せてみたい(憧れの)雑誌を指します。例えば,記憶研究なら,Journal of Experimental Psychology,Journal of Memory and Languageなど。

Photo by Hadija Saidi on Unsplash

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