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ありがとう、大好きな人たち

2021年12月24日、クリスマスイブの日。
わたしのもとに、クリスマスプレゼントと呼ぶにはあまりにも切なくて寂しすぎるニュースが飛び込んできた。

「私たちBiSHは、2023年で解散します。」


BiSHのメンバーであるセントチヒロ・チッチが、マイクを両手で持ち、カメラに向かってこの言葉の重さを表すかのようにゆっくりと言った。



わたしの人生を変えてくれたBiSHが、人生ではじめて好きになったアイドルが、解散してしまう。


どうしたらいいのかわからなかった。何を思えばいいのかもわからなかった。頭が真っ白になった。
永遠だとか、一生だとか、そんなことを信じて生きてるほど馬鹿ではないつもりだ。だからわかっていたはずなのに、それなのに、ただどうしようもなくもどかしかった。


この解散告知があった緊急生配信ライブ「THiS iS FOR BiSH」は、ライブパートはYouTube上で、それ以降のパートは12月にメンバーがマンスリーMCを務めた日テレ系の番組「スッキリ」にて中継された。事前にテレビでの放送がある旨の告知があったとはいえ、“締めの挨拶以降”の配信がYouTubeからに移行されると知った瞬間、心中は漠然ともやついた。配信先をYouTubeよりも影響力のあるテレビにわざわざ移すのにはきっと、大切な理由があるはずだと。

そう思ったのは、その数日前にとあるスポーツ紙が彼女たちの解散を報じていたからでもあった。
メンバーの口から出る言葉以外信じてやるものかと、わたしは内容に目を通しつつも、頑なにその報道の内容を受け入れようとしなかった。実際のところは受け入れなかったというより、自分の心を守るために否定し続けていたのかもしれない。


ただそのとき、動揺するわたしの気持ちを落ち着けてくれたのは、推しメンであるハシヤスメ・アツコさんのこのツイートだった。

解散発表説が囁かれ、きっと本人もそれを知っているであろう中での「お楽しみに」という一言。深刻な空気を吹き飛ばすようなこの言葉をツイートに添えてくれた真の理由はわたしたちにはわからない。けれど、そこには、みんなに安心してほしい、どうか悲観的にならないでほしいみたいな優しさが込められているような気が、わたしにはした。

アツコさんがこう言ってくれるなら、きっと大丈夫。たとえネガティヴなことが起きようとも、必ず最後は笑顔でいられるようにしてくれる。そうなるはず。

こう思えたのは、わたしの推しメンに対する勝手な信頼によるもの以外の何物でもなかったが、それでもこの一言がわたしの精神を繋ぎ止めていてくれていたことは確かだった。


今思えば、発表の直後にテレビカメラの前で歌唱した「プロミスザスター」を聴いた瞬間が、寂しさのピークだったのかもしれない。
あと何回、この歌声を聴けるんだろう。何かを掴もうと高くに伸ばしたチッチさんの腕に手のひらを寄せ合い、光を見つめるメンバーの姿を、あと何回見れるのだろう。
ふつふつと湧き上がるそんな感情がわたしを渦巻き、涙が溢れた。


わたし自身、認知しているグループの解散を目の当たりにしたことはあれど、推しているグループや好きなグループの解散に一度も直面したことがなかった。
だから尚更のこと、どう受け止め、どんな言葉を返すのが正しいのかがわからなかった。

そもそもの話をすれば、BiSHを好きになるまで特定のアーティストにのめり込んだことがなかった。
それはアイドルという類に踏み込んでも同様で、好きになるどころか、むしろわたしは数年前までアイドルが嫌いだった。
それも特定のアイドルが、とかではなく、「アイドル」というその概念を、知ろうともせずただ偏見と共に毛嫌いしていた。

「アイドルはいつも大人に操られている感じがするし、偶像でいることを求められて可哀想。もっと個性を押し出せばいいのに。」

このような、幼きわたしの理不尽すぎる偏見を捨てさせ、アイドルを“好き”にさせてくれたのがBiSHの存在だった。

冒頭の “わたしの人生を変えてくれたBiSH” という言葉は、この経験に由来するものだ。

実のところ知った当初は彼女たちのことを「でも、アイドルでしょ?」と言って遠ざけていた。今になってはこの数ヶ月間が惜しいのだが、それほどにわたしはアイドルを嫌悪していた。
その理由は今となっては全くわからない。

よく、「嫌いなのは羨ましいからだ」なんて言葉を聞く。
けれど、わたしにとってそんなことは一切なく、ただその存在に対して嫌悪感と距離感を抱いていたという事実だけが、根深い記憶として残っている。


そんなわたしの感情を一変させた出来事は、あまりにも突然に訪れた。

「そういえば少し前に知ったBiSH、ちょっとだけ曲聴いてみようかな。」


ある朝、このグループこそが“出会いたい存在”であると勘付いたかのように、唐突にこう思った。
そしてYouTubeで検索をかけては公式からアップロードされている映像を適当に選んで再生する動作を、何度も何度も繰り返した。更にメンバー個人のTwitterアカウントも覗きに行った。

衝撃を受けた。魂が震えた。


テレビでもライブでも堂々と歌唱する姿、それでもダンスが決して甘くないところ、メンバー間のやりとりやSNSでの発信内容がとても人間らしいところ。

それぞれが歌声に信念を持っているところ。

6人の女の子が“アイドル”という偶像的存在ありながらもありのままに生き、ひたむきに表現をする。そんな姿に妙なほど惹かれた。

「わたしが思い描いていたアイドル像、ちっとも本当じゃなくない??」


こんなことに、ようやく気づいた。

それからわたしは完全にBiSHの存在を“推しグループ”として認識するようになり、この出会いをきっかけにして“アイドルと”いう概念を一歩ずつ、好きになり始めた。

ひとくちにアイドルといえど、知名度や形態は実に様々で、知り尽くせないほどたくさんのグループが存在していることも、誕生と消滅を繰り返す切ない界隈だけれど、紛れもなくわたしたちの生きがいになってくれるような素敵な女の子たちで溢れていることも、知った。“アイドル”というそれを知ろうとして初めて、気がついた。

その中でも、どのアイドルを好きになるかはその人自身が大切にしているものに従うのではないかと、そんなことをも考えるようにもなった。
それがわたしにとってはBiSHであり、WACKのアイドルの在り方であったのだと思う。
彼女たちはいつもありのままだった。弱さを隠さなかったし、全身を使ってパフォーマンスをするその姿には、操り人形という単語が良い意味で一番似合わないようにわたしには思えた。個性を潰すような行為をすることもなく、互いを尊重しあっていることが、伝わってくる瞬間が何度もあった。
だからこそ、かつて持っていた偏見やイメージが決して正しいものではないことを、理解できたのだろうと思う。

それゆえに、現在進行形でアイドルオタクをしているわたしにとってBiSHはかけがえがなく、人生の行き先を変えてくれた存在なのだ。

今わたしが一番推しているGANG PARADEに出会えたのも、彼女たちがわたしの偏見を振り払い、アイドルを愛せる人間にしてくれたからに他ならない。


だから解散発表を聞いてわたしは、まだ足りない、会い足りない、感謝を伝え足りないと強く思った。

きっと、幼きわたしに「将来はアイドルオタクしてるよ」なんてことを言ったら、笑われるに違いない。
あのとき、BiSHを知ろうとしなかったら、今は何を好きになっているんだろうか。今でもアイドルを毛嫌いするような人間だったのだろうか。
そんな答えの見つかりようがないことを、わたしはよく考える。

わたしはこの春で高校3年生になる。
彼女たちは2023年に解散する。


もしかしたら、本当にもしかしたらの話でしかないが、彼女たちのラストステージを見届けられない可能性だってある。
どうしても最後まで見届けたいのに、叶わないかもしれない。すでにわたしが彼女たちのライブをこの目で見たのは半年以上前のことだった。

どれだけ涙と悲しさでボロボロになっても、好きになった人たちの“最後”の姿は見届けたい、そう思うのはオタクである以上、全員共通なのかもしれない。

そして何よりわたしたちは、彼女たちが駆け抜けるゴールまでの道のりを見守っていかなければいけないと思う。
この決断を最も惜しんでいるのは、彼女たちかもしれないからだ。テレビ出演と並行して載せられたインタビュー動画や記事を覗くと、本当にこれが正しい選択であるのか迷い、時間をかけて自分自身を納得させたように思える言葉を発信するメンバーも、解散発表までの苦悩を明らかにしたメンバーもいる。
だからこそ、わたしたちがそれを「正解」にする手助けをしなくちゃいけない、そんなことを、微かながらにわたしは思う。

アイドルは儚い。
仮に元々アイドルをやっていた女の子が芸能界に残る決意をし、SNSでの発信が続いたとしても、以後彼女の名前が「アイドルの」という言葉で修飾されることはなくなる。

だから、アイドルでいる間のようにステージ上で華やかな衣装を着て歌い踊る姿を見ることも、至近距離で会話を交わしたり、チェキを撮って思い出にしたり、なんてことも当然なくなる。

もちろんそこにはどのアイドルなのかによって差異はあるだろうが、誰でもいい、誰か身の回りでアイドルを引退し、表舞台に残っている人のことを想像してみてほしい。きっと当時と今とでは在り方が大きく異なっていると思う。

だからこそ、推しと共有できる時間は常に大切にしなければいけないと思うのだ。


ここまで悲しいだとか寂しいだとか語っておきながら、実のところわたしは推しメンであるハシヤスメ・アツコさんと直接会話を交わしたことがない。
願わくば一度だけ、一度でもいいから、言葉を交わして、感謝を伝えたい、そう思っている。
彼女が「BiSHのメガネ担当」である間に。


出会えてよかった、ありがとう。


2023年までを思い描いた通り駆け抜けられること、そしてその先の彼女たちの人生が、幸で溢れたものになることを祈って。

えと

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