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大規模怪異発生日記10

主な登場人物


万禮ばんらい久幸ひさゆき、ヒー、始祖:
かど凌司りゅうしのバンパイアにおける直系始祖。
かど凌司りゅうし、りゅーし:
万禮ばんらい久幸ひさゆきのバンパイアにおける直系係累。
左から
大空ひろたか久幸ひさゆきの実兄スカイの伴侶。鳥人。
千夜ゆきやす久幸ひさゆきの兄の子孫。久実ひさのりの母方の祖父。
久実ひさのり久幸ひさゆきの兄の子孫だが、
ヒューマン社会には久幸ひさゆきと共に
二卵性双生児と偽って生活している。千夜ゆきやすの孫。
左から
西田にしだ絵理香えりか凌司りゅうしの元妻。朗正あきまさ華代かよの生母。
朗正あきまさ凌司りゅうし絵理香えりかの子。母と同居。
華代かよ凌司りゅうし絵理香えりかの子。幼少時に父方祖母の養子となる。
左からラン:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの恩人。
トゥ、師匠:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの魔術の師。
泰市たいち:ランとトゥの伴侶猫。

話中の万禮一家は、
メンバーシップ「夢了の皿」会員の万禮様のオリジナル・キャラクターで
設定その他は会員様御本人と話し合っております。
711号室出演者≒メンバーシップ会員様は常時募集中です♡

万禮様の偶さか日記も併せてお読みいただくと解像度とエモさが跳満です。

始祖


暗夜迷宮日記スクショ 第十更新分
20230401~20230329
テキストは以下


20230329

朝から見かけなかった始祖が昼過ぎに
精神感応念話で話しかけてきた。
「凌司君、今暇?」
「まぁ多少は。
台本を読んでたので」
「台本って吸血鬼の?」
「そう、我々の馴れ初めの」
「へぇえ、懲りねぇなー!」
「え、不味いの?」
「いや、もうこれからは俺がいるから
他の土地で演ってもあんな事にはならねぇよ」
「え! そんなに刺激的な台詞なの!?」
「まぁな。
だから他の劇中では何百年使われなかった筈だ」
「作家にバンパイアが接触して止めさせたとか?」
「……まぁそんなトコだろうな。
『匂い立つうなじ』の前のくだりは
省けるんなら省いた方が良いんじゃねぇかな」
「何とまぁ……そうするように尽力するよ。
で、本題は?」
「ああ、視界の共有ってした事なかっただろ?」
「そんな事できるの?」
「ああ、余裕の筈だぜ。
コレ、視えるか?」

薔薇を背にした女性の肖像画

「肖像画? 美しい方ですね」
「そこそこな、コレが俺の始祖」
「ほほーぅ」
「三時間したら飯の材料持って帰る。
晩飯は一緒に作ろう」
結局、調理中に始祖の始祖の話を
聞かせてくれる事はなかったが、
買って帰ってきた食材は
ゴルゴンゾーラチーズにマスカルポーネチーズ、
バターに生ハムにサラミ、
アスパラにグリーンピース、
私が見て分からなかったものは
特別なアーティチョークとホップの新芽と
シラタマソウの新芽とケシの新芽で、
イタリア北部の市場で買ったのだと
機嫌良く話してくれた。
「これはリゾット、
こっちは炒めてからオムレツ、
あれはサラダでいけるのが
今だけだからサラダにする」
何も見ずにテキパキと既存の材料と一緒に仕分けして
調理手順も指示してくれた。
物を作る楽しみは、
始祖の過去に迫る楽しみにも勝る。

20230330

珍しく始祖が朝食後に行先を告げた。
「万禮の家に居っから、何か遭ったら絶対呼べよ。
探索は21時半スタートな」
何か夢中になれる物を手に入れたのだろう。

私は劇団長であるほおのき社長へ連絡して
バンパイアに刺激が強過ぎるらしい一文を削るよう打診した。
理由は「不評だったから」。
これまでにも練習に付き合わせた相手の意見を反映させられたので
勝算はあったのだが、
今回は社長が書いた台本だったのでかなり緊張した。
「そっかー、じゃァ、無し・・で」
どうやら思い入れのある表現ではなかったようだ。
私は盛大に胸を撫で下ろした。


20230331

何やら始祖が傷心のようなので放って置いた。
彼は私の傍に居たければ来るタイプだから、
きっと今は独りで居たいのだろう。
精神感応念話は使わずに
メッセージアプリで明日の予定とリクエストを訊く。
こういう時にはスタンプが重宝する。
私「(『秘技!至福招き』のスタンプ)
明日、君の誕生日だよね?
予定とリクエストを教えてもらえる?」
数時間後に返信が届いた。
始祖「たぶんエイプリルフールで
昼過ぎになりちかチャンが来るから
二人で何かに化けて待とう。
リクエストはそれだな。
二人分の変装?」
私「では思い切って女装でもする?」
始祖「(『まじか』のスタンプ)」
私「ちょっと君にはハードルが高いか」
始祖「(『この際です、楽しみましょう』のスタンプ)」
私「了解。
では朝食後に、かな?」
始祖「(『宜しくお願いします』のスタンプ)
今夜の探索は22時半スタートな」
私「(『大丈夫、ツイてますよ』のスタンプ)」

20230401

朝食中に始祖に希望の仕上がりイメージを聞き、
食後一階衣裳部屋で衣装を見繕い
劇場裏の楽屋に移って女装を開始した。
常日頃から運動を欠かさない人は新陳代謝が活発なのだろう。
始祖は惚れ惚れする程に化粧乗りの良い肌だった。
立派な眉は半分を眉マスカラで肌色に染めて
ウィッグの前髪をおろせば問題ない。
190超えの身長は……
うむ、エイプリルフールだから問題ない。
師匠とランさんと泰市さんも招いて、
始祖の誕生日とエイプリルフールを盛大に祝った。
ナリスさんとチカッツさんの髪色と瞳の色を真似た、
始祖と私の渾身の女装は大好評を得た。
師匠とランさんと泰市さんは我が家へ移住したという
一瞬で真実を明かす可愛らしい嘘の為に
泰市さんのキャットタワーや複数のトイレと
家で使っている食器まで持ってきた。
ナリスさんとチカッツさんは
完璧なこの星の女学生になってやってきた。
恒例のように門から玄関まで叫びながら。

ナリス「たのもー!!」
チカッツ「入学祝いくださーい!!」
二人が生まれ育った地は紛争がまだ続いていて
せっかく獣人の生を受けたのに
教育どころではなかったから
学校には多大なる憧憬があるのだと言う。
本物と見まごうばかりの制服は
彼等の店の京斉店長の仕事で、
不自然な所の一つも無いヒューマンの姿は
師匠の変身魔法薬の仕事だそうだ。
タイムリミットが三時間だと言うので
皆で外へ出て女学生がしそうな遊びに付き合った。
ス×ーバックスで見栄えのする飲み物をテイクアウトして
ターゲティングが若めの商業施設を懲らしめてウインドウショッピングして
ゲームセンターでプ×クラを撮って、
本屋で色々な本を流し見した。


ナリス「凌司ちゃ、ありがとね!
お姉さんできたみたいで楽しかったよ!」
君達のお蔭で楽しい一日になったから、
女装のまま街を歩くのも……まぁ、ね。
始祖は笑顔が完全に固まって貼り付いているようだが、
なかなか眼福だったよ。




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