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チェーン店では味わえない、ある一つの決定的な体験──作り手と相対しながら食べることの豊かさについて

僕はいわゆるチェーン店もけっこう好きなタイプだと思う。

それこそ松屋やマクドナルドなんて、中高生の頃から行っているけれど、今でも時折足を運ぶ。調理がマニュアル化されているがゆえの安定感のある味、時間がないときでもサクッと食事を済ませられるスピード感。そして店員さんに話しかけられることは基本的にないので、匿名性に紛れたい気分のときは最適だ。

さらに、実は街中でよく見かけるチェーン店であっても、それぞれが独自の思想に基づいて運営されていたりする。サイゼリヤはただの安イタリアンではないし、松屋と吉野家は根本思想が明確に違う……このあたりの深淵な世界は、以下の名著でとても明瞭に解説されているので、関心があればぜひ。

そんなこんなで、僕は仮にいきなり宝くじで3億円当たっても、たまにはチェーン店に行くと思うのだが、唯一チェーン店に欠けている、決定的な要素があるようにも思う。


(※)本ブログは、株式会社PLANETSが発行する雑誌『モノノメ 創刊号』について、そのいち編集部員である僕が、個人的な所感を綴ったものです。このブログを通じて、より多くの方に『モノノメ 創刊号』を手に取ってもらい、既に購入いただいた方にはより多角的に雑誌を読む一助としてもらいたいという目的で書いています。

チェーン店に欠けているものとはなにか。それは、作り手の顔を見て、直にこだわりについて話を聞きながら食べる、という体験だ。

逆にいえば、個人経営の飲食店の大きな醍醐味の一つは、ここにあると思う。

その時々によって変わりゆくメニュー。新しいメニューを入れた理由や意図について話を聞きながら口に運ぶと、料理そのものに加えて、物語も含めて味わっている気がして、より一層美味しくなる感覚。マニュアル化されておらず不安定だからこそ、スリリングでエキサイティングな、対話的体験になる。

人によっては、話を聞くなんて余計なことをせず、料理そのものを味わってこそ至高なのだと言うかもしれない。それも一理あるとは思うが、僕は料理そのものだけでなく、その背景にある物語も含めて多角的に味わうほうが、基本的には好きだ。作り手の話を直接聞けること、それこそがチェーン店にはない、個人飲食店の良さではないだろうか。


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PLANETSの新雑誌『モノノメ 創刊号』に収録されている、[連載]「おいしいものにはわけがある  #1 「たかまつ」の弁当」では、まさにそうした作り手の想いをふんだんに味わうことができる。毎回ひとつ「おいしいもの」の秘密を探る連載の初回は、「たかまつ」というお店のお弁当。行ったことのない店なのだけれど、美味しそうな写真と共に、作り手の想いを聞いていると、不思議と「味わっている」感覚が得られる。

「メニューを考えるときに毎回紙に書くんです。それを全部ストックしているので、お客さんが好きだって言うと同じものを入れたり、前回はこうだったから別のおかずにしようとか考えたりしながら、作るメニューを決めています。今日は宇野さんが食べるから、ちくわ天は入れなきゃと思ってました(笑)」(p275)

ただ高い店に行くというのとは違う、豊かな食の体験とはなにか。それを十二分に味わわせてくれる記事になっていると思う。なお、読むと確実にお腹が空くので、深夜に読むのはおすすめしません。


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