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5月10日に見た夢のはなし

すごく鮮明な夢を、毎日のように見ていた時期のメモ。供養。

彼らは一日を一緒に過ごして、最後にまたあの高台で街を見下ろした。夕日に輝く街に対して彼の心が泣いたとき、代わりに私が泣き出してしまった。

私はそれをとても愛おしく思って、ああ彼が好きなんだと気がついた。そして彼の手を取った。嬉しそうに指を絡めるから心臓がドクドクと鳴った。

離したくないと思ったから、ぎゅっと彼の腕を抱いた。高台から降りていく階段の途中で、彼が私を見て笑った。好きだと思ったけど言えなかった。どうしてかはわからないけど、こんな彼のことを私が好きになって良いのかと不安になった。でもどうしようもないくらいに体の真ん中が弾かれて、私はそれを恋だと思った。

彼も私を好きだった。それなのに、不思議な顔をして困ったように笑った。よくわからないからまた彼の腕をグッと引いた。下へ下へと続く階段で、私たちは私たちだけだった。疑いようもなく恋をしていた。それでもまだ日は暮れていなかった。

*

遠い場所にいた彼をとても近くにいる人だと勘違いしていた。夢から覚めて、彼に会うことはないのだと理解したとき、頭がズンと重くなって、私は体を保てなくなった。そしてどろどろに溶けてベッドに染み込んで、そんな人生ならいらないと、全てを投げ出して世界へと戻ろうとした。

*

気がついたら北の方にいた。大きな部屋に一人ぼっちで、覚えのない荷物が床に散乱していた。これからここで暮らしていくんだと悟った。カーテンを開けると大きな窓の外は雑木林で、奥の方に大きな湖が見えた。

左隣の部屋が共有部になっていて、そこのベランダでコーヒーを飲もうと思った。思ったのだけど、電気ケトルを前の部屋から持ってこなかったことに気がついて後悔した。突然鍵の壊れた部屋の外から、秩序なく楽器が鳴らされるように、知らない人の声がたくさん聞こえてきて怖くなった。自分がなぜそこにいるかさえも、実はわかっていなかった。

そして結局気がつくのは、やはりもう彼に会えないということで、私はうずくまる。大きな部屋、水色のスーツケース、靄がかかった窓の外、忘れてきた電気ケトル。何もかも灰色で、でも灰色は彼の色で、私は好きだった。好きで好きでどうしようもないのに、いまはただ一人だった。

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