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散文

「洋は◯◯の仕事してるんだよ」
と他己紹介され、
「あー、そんな感じする!」
と言ってくださったドラァグクイーン様がいた。
彼女(彼)が、仮に家と職場を往復する生活をしているとして、どんな姿で暮らしていたのだろうと。そんな疑問を飲み込む。
その日ステージに立つダンサー、パフォーマー相手にするのも無粋すぎる気がしたからだ。
そんなワンシーンを今ふと思い出す。
もう10年以上前の大阪で暮らしていた頃だ。
一度だけ話をした彼女は今どうしているだろう。
もしかしたら隣で新聞を広げてコーヒーを飲むおじさんは彼女かもしれない。

もしかしたら梅田のあの横断歩道を節目がちにすれ違う人の群れの中に、彼女(彼)はいたものかもしれない。
通学、通勤時間帯が同じで何度かすれ違っているかもしれない。
四ツ橋線の車両の壁に持たれていたかもしれない。
スーツの年嵩の男性かもしれない。
眉間に皺を寄せる同世代っぽい人かもしれない。
手をたどたどしく振る赤ちゃんに表情筋をユニークに歪ませた顔を向けるあボディピアスの若者かもしれない。
いや、あんなゴツイのだったら気づくか。

華のある舞台を生み出すため、
日々スタジオへ通い、鏡に向き合い、
筋肉や脂肪をもチャームへと仕上げる。
メイク道具や美しい衣装を探したり、自分向けにカスタムしたり
おそらく私よりよほどヒールに慣れた足は時にいたみ、悲鳴をあげることもあるはず。
それでもまた鏡に向かい、どうしたら魅力的に見えるか、おもろく見えるか、より輝けるかを研究して振付を作り込むのだろう。
弛まぬ努力、輝きへの献身。
知る人ぞ知る舞台の光る君。

私は「そんな感じ」らしい仕事ということだが、
彼女(彼)にはむしろ、「そんな感じ」ではない職業であってほしい。
勝手な希望は承知の上だけど、力仕事とか、大きな重機を扱うとか、そんな仕事をしていてほしい。
ギャップがより輝きを引き立たせるような。
美容師とかではそれは叶わないのよ。

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