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なんでもない話

最近、私は怖い話を聴くのが趣味である。
ツイキャスでやっている禍話というやつだ。
どれも興味深く、私は心霊の類は信じてはいないが、話術、「話」というより「噺」という感覚で聞いている。
とはいえ人間一つくらい怖い話というか論理では割り切れない奇妙な話を持っているものである。
大して怖くはない、断言しておく「怖くはない」ただどこか割り切れない雰囲気がある話である。

私が子供の頃だ。私は北海道の田舎出身であり、田舎の生活は常に車とワンセットであった。
当時は90年代後半頃で確か我が家の車は黒いローレルだったと思う。新車ではなく中古車だったように記憶している。
田舎の道を夜走ったことがありますか?
田舎の道は街頭も少なくぽつんぽつんと家が点在しているが当時煌々と明かりがついているという事もなく23時にもなれば真っ暗な道に真っ暗な家が佇んでいる。そんな感じだった。
私の両親は当時パチンコが趣味だったのでよく閉店までパチンコを打ちそして夜帰宅することがままあったのだ。
そんな帰り道である。
あたりは真っ暗、ほぼ農道と言っても過言ではない道を母の運転する車が走っているとふいにぶーんと音がして我が家と同じような黒い車が追い越していった。我が家の車もそれなりの速度が出ていたように記憶している。
そして100mほど行くと車線は工事のため右に急激に曲がる迂回路となっていたが工事灯も特になく看板だけで母が「危ないな、これ」と言っていたように記憶している。

これの何が不思議なのか?
きっとわからないと思うが、前述したように道路は真っ暗である。真っ暗であるが故に車の赤い後照灯の灯りがよく見える。100mほど先なら直線なので余裕で見えるはずである。
そしてブレーキランプの灯りも点灯した記憶はない。
当時カーナビも車載テレビも発達していない時分なので父と母そして私の三人はずっと前を見ている。
要は我が家の車を追い越した車が忽然と消えているのである。当然我々が抜かされた場所からそこまでは一本道だ。
まぁそんなこともあるだろうと納得しかけた父と私に母がすごく嫌なことを言ったのを覚えている。
「さっきの家のと全く同じ車じゃなかった?」
「気のせいだべ」と父は言ったが、私は何となく本当に我が家と同じ車に抜かされた気分になってすごく不安になった。

夜は少し肌寒い北海道の夏のことだった。

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