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先日お盆休みを利用して家族旅行へ出かけた時のこと。旅行のメインイベントは木下サーカスを観ることでした。あいにくリングサイド席は取れなかったので自由席でいいかと軽いノリでチケットを購入していたのだが、これが後に大いに後悔することになる。そんなことは予期することもなくのん気に構えて午前11時開演だったので余裕を持って10時前に駐車場に到着すると既に自由席の争奪戦は始まっており長蛇の列が出来ておりました。

とはいえ私たちは運よくタープの中で待機することが出来たので真夏の炎天下の中ではなくギリギリ日陰で会場待ちをすることが出来た。会場入りするとショーを正面に眺めることが出来そうな席は皆指定席だったが舞台を囲む観客席の作りが青山円形劇場のようにほぼ円形のような感じだったので、それならリングサイド以外は自由席と大差ないんじゃないかと読みそれなりによさげな席を確保して開演を待つことにした。

会場は即席で作られた上位互換テントといった装いで空調完備を謳っていたものの、それはいくつかのダクトから漏れるヌルイ風だったので会場の熱気と真夏の炎天下を凌ぐ空調とは程遠い存在だった。しかし幸いなことに会場は飲食禁止でなはくドリンクやかき氷等の販売があった。市販で140円程度のアイスボックスは200円という価格にもかかわらず飛ぶように売れていた。需給のバランスを利用した価格設定だが個人的にはあの環境下ならアイスボックス、500mlのドリンクのどちらも300円でも売れたように思う。
恐らくサーカスはそう何度も観に行くことはないだろうという心理を逆手に取った戦略はまさに「売れるなら強気な価格ホトトギス」だ。

さて、サーカスそのものは特に目新しい演目はなくどれも過去にテレビで見かけた光景だったのだが生で見る機会がないのでとても新鮮だった。ただし、自由席は機材の後方の座席になるためしばしば死角になるのでリングサイドでなくとも若干の課金を惜しんではいけないと思い知った。価値のあるものを適正な価格で販売することはどんな世界でも共通だ。

ショーの最後は皆さんご存じ空中ブランコで締めくくるのだが実はこの公演で一番の拍手喝采を浴びた演目は意外にも演目中盤のジャグリングだった。

ジャグリングも実はそれほど目新しいパフォーマンスはなかった。始めはボーリングのピンみたいなモノをポイポイ放っては受け取り放っては受け取りして、やがてアシスタントが頭より一回り大きな輪と取り換えた。なぜ輪にしているかというと放った輪を受け取って首にかけていくためだった。ポイポイ放っていくうちにアシスタントがどんどん輪の数を増やしていく。最後はあまりの輪の数に「おいおい、大丈夫かよ」と髭のパフォーマーが自問自答するようなジェスチャーでクライマックスを迎える。

小太鼓の効果音に反して会場が静まり返る。髭が「やっ!」とばかりに次々と輪を空中に放る。そして落ちてくる輪を掴んでは首にかけ掴んでは首にかけ残り3個あたりで掴み損ねた。舞台に転がる輪を見ながら会場は「あー!」というどよめきに包まれる。結果は失敗。しかし髭はもう一回やらせろというジェスチャーでアシスタントからもう一度輪を受け取り再度挑戦。会場からはささやかな拍手。そしてなんとここでも失敗。会場全体が「え?こんなことあるの?」とザワザワし始める。
それでも髭は最後にもう一度だけやらせろと食い下がった。すると子供の声で「がんばれー!」と聞こえると会場は一斉に髭を応援する声で一杯になった。私はこういうのには結構冷めている性格なので「ここで成功する演出か」と読んだ。
小太鼓の効果音が鳴る。会場全体が髭の成功を信じて疑わない。
髭が輪を次々に空中に放っていき落ちてくる輪を掴んでは首にかけ掴んでは首にかける。観客全員が輪のカウントダウンを始めていき、3・・・2・・・「あっ!」掴み損ねた輪が舞台の上を転がる。なんとここでも失敗。

髭は悔しそうに名残惜しそうにしながらも、それでも次の演目のために潔く観客に頭を下げて舞台を立ち去ろうと歩き始めた。するとアシスタントが髭を帰さなかった。「お前、これで帰ったら男がすたるぞ」と言わんばかりの所作で舞台の中央に髭を押し戻した。会場はさながらアンコールの雰囲気に包まれながら活気を取り戻した。今度は大人も「次は出来るよ!」「頑張れ!」と子供そっちのけで声援を送る。すると子供達も「頑張れー!」と叫び会場は再び熱気を帯び始めた。髭は声援に応えるかのように舞台中央でラストパフォーマンスの所作に入った。会場は髭の一挙手一投足に全神経を集中している。この日何度目かの小太鼓の効果音とともに会場が静まり返る。髭の雰囲気が変わった。プレッシャーもなんのその、堂々とした所作で次々と輪を空中に放った。やがて落ちてくる輪を掴んでは首にかけ掴んでは首にかけ、めまぐるしく動く髭の動作を必死で追いかけながら会場全体がカウントダウンを始めて3・・2・・1・・・

あっという間に全ての輪を首にかけた瞬間、会場に大きな歓声とともに拍手が鳴り響いた。大成功だ。

今思えば恐らく数々の失敗の全てが演出であったと思う。あの瞬間観客の全員が間違いなく髭に心を奪われた。会場が一体感に包まれた瞬間だった。あの空気感を狙っていたんだとしたら物凄い技量と度量だ。

サーカスはチケット代はそれほど高くはないが恐らく何度も繰り返し見ることはないと思う。演者もそういう顧客心理を理解している。更に演目によっては命にかかわる危険な芸もあるから演劇とは違った意味で真剣勝負をしている。これにちょっとした笑いの要素を入れる。これぞまさしくエンターテイメント。

翻って麻雀はエンタメに成り得るか。他のスポーツ競技も含めて1回勝負に感動することは極めて稀だと思う。その勝負の場に至るまでのストーリーに自身を投影させたり推しの選手の背景を慮ることで感情移入するケースが多いように思う。更に麻雀は他の競技と違って一対一ではないことも一層難しくさせている。視点が定まらないということが大きなハンデになることも多いのではないかと思う。そこで得意の妄想力を働かせてこんなことを考えてみた。

AbemaプレミアムでMリーグを視聴するとオリジナルの多方面画角を選択出来るがこれを自身でカスタマイズ出来ると面白いと思うがいかがだろうか。
スマホやPCのブラウザだとディスプレイサイズによって画角が増えるのは逆に見難いという欠点があるのでそこを自分好みの画角で調整して視聴しようというわけだ。
特に私が見たい画角は推しの選手目線だ。例えば推しの選手の目線と手牌だけを選択すると推しの選手との一体感を持って対局を視聴出来るわけだ。実況・解説が他家の手牌構成に関する情報を話すからそこは一考の余地があるけれども、基本的に他家の手牌が見えないから押し引きも推しの選手と一緒に悩むことが出来る、オーラスの逆転のリーチなんかは選手と一緒に歯ぎしりしながらツモを見ることが出来てかなり面白いんじゃないかと思う。それから高宮さんとオカピーが同卓した時なんかは一粒で二度美味しい感じになるんじゃないかと思う。(どんな感じだ)

Mリーグにおいてのエンタメはどちらかというとネガティブな意味合いが濃いことが多い。バラエティや余興みたいな意味合いでも使われるエンタメという単語。真剣勝負だから生まれる感動や興奮という意味でエンタメを更にいろんな角度で味わうことが出来ればより面白いと思う次第です。

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