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【短編小説】青い春にさようならを

大きな音が店内に響いた。

目の前の彼女が思いきり机を叩いた為に出た音だ。
「僕は本気だよ」
彼女の目を真っ直ぐ見つめて言った。彼女が我に返り席に座り直したところで、僕は改めて、ゆっくりと告げた。

「別れよう」

まさか自分からこの関係の終わりを宣言する日がくるとは。人生、何が起こるか分かったもんじゃないな。
彼女が店を出た後、再び静けさが戻った喫茶店内で1人、そんなことをぼんやり考える。

そもそも彼女の気持ちが揺らぎ始めているのは知っていた。であれば、一緒にいても未来のビジョンが見えない僕と付き合うより、こちらから敢えて切り捨て、あの男性の元へ送り出す方が余程親切と言えるだろう。
不確定で不安定な未来を共に歩んでくれ、というのは酷であり無責任だ。僕はそんなことを平気で言う奴にはなりたくない。

と、目元が湿り気を帯びたと思えばすぐにこぼれ落ちる温かいものがあった。

「あは…良かった。あの子の前で抑えられて」

流れてきたそれは、拭っても拭ってもこぼれてくる。本当に厄介なものだ。
でも、これでいい。きっと彼女も僕と付き合ったのは、何かの気の迷いだったのだ。それは僕にも言えるはずのこと。

「はー…。青春だなぁ」
まだ震える声で1人呟き、僕は未だ瞳から流れるそれを今度はゴシゴシと強く拭う。

「さようなら。好きだったよ」

彼女への想いを口にするのはこれで最後にしよう。
席から立ち上がって制服のスカートのシワを直し、僕は店を後にした。

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