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【短編小説】ぐちゃ

ぐちゃ、ぐちゃ。

それは何かを踏んだような、潰したような音にも似ていた。

日を跨ぎ家を出てすぐ聞こえ始めたその音は、私の耳許から離れない。

そういえば今日は私の誕生日だったっけ。最近忙しくて忘れていた。

今頃彼は、私へのサプライズでも計画しているのかな。ここのところどことなくソワソワしていたし、そういうの隠すの下手なんだよなぁあの人は。
まぁ、そこが可愛くもあるけれどね。

ゆっくりと、けれど等間隔で聞こえるあの音はまだ続いている。
あぁもう、折角ときめくようなことに思いを馳せていたのに。音がうるさくて、その思いに集中出来ない。

というか、今何時なんだろう。コンビニにアイスでも買いに行こうって思いつきの行動だったから、スマホも腕時計も家に置いてきちゃったんだよね。

時間が分からないと落ち着かない性分なのに、何で財布とエコバッグだけで外出しちゃったんだろう。
今度からはちょっとした用事でも、スマホか腕時計のどちらかを必ず持って出ることにしよう。うん、ここで学んだから今度は同じミスしないはず。

しかし最寄りのコンビニ、こんなに遠かったっけ。あの音は相変わらず止まないし、もしかして狐に化かされでもしているのかな?
なんて。この辺に野生動物なんて出ないっつーの。



今でもはっきり覚えています。
帰りの遅い同居中の彼女が気になって、たまらず捜しに家を出たんです。

そうしたら、最寄りの駅やコンビニとは程遠いひとけのない路地で…彼女は、死んでいました。

更におぞましいことに、そんな彼女の体をあの町の子供達が…寄ってたかって、た…食べ、たべ…て……。

は…はい…あの町へは、2人で越したばかりで…交番などは町になかったですし、何よりこんな話をしたところで、誰も信じないでしょう…?
精神を疑われて、病棟に押し込まれるのがオチですよ。今の僕みたいに…は、はは…。

もういいですか?
思い出したら、またこわくなってきちゃって…早く、出て行ってください…。

こわいのは、あの時の子供達や彼女の姿じゃなくて…僕です…。

あの日以来、この話をすると…人のことを美味しそうだと、あの子供達のように目の前の人をただ食べたいと、思うように…なってしまって…。

だからもう…こないでくださいね。


あなたのこと、食い殺したくは…ないんです…。

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