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【短編小説】敵わない

「はい!また私の勝ちー!!」
言いながらあいつは、手に持っていた番号の揃ったトランプを、こちらにわざとらしく開示してみせた。
「ホント分かりやすいよねーキミ。ぜーんぶ顔に出るんだもん」
「そんなにか…?」
「だってさ?ババを引いた時はすんごい苦い顔するし、私がババに手をかけると口元緩むし。真剣にやってキミに負ける方が難しいよ」

「これでもポーカーフェイスで何考えてるか分からないって言われる方なんだが…」

「はいはい。どーせ自称でしょ?
じゃあ約束通り、今日のお昼奢ってねー」
あいつはそう言い残し、踵を返して俺に向かってヒラヒラと手を振りながら、軽やかな足取りで教室を出て行った。

「てかあいつ、補習にきたんじゃないのかよ…。いいのか?トランプなんか持ち込んで」
一人でそんなことを呟いていると、後ろから俺の右肩をポンポンと軽く叩く手があった。振り返るとそこには、あいつと同じく夏休みに補習しに登校してきたクラスメイトがいた。

「今日も補習の先輩のお守りか?幼なじみってのも大変だねえ」
「何をしみじみしてるんだよ。お前はもう終わったのか?」
「うんにゃ、これから。お前自身はいつも先輩に付いてきてるだけなんだろ?」

これから補習受けるなら、こんな所で話し込んでいる暇なくないか?などと思いながらも、俺は腕を組んでそのクラスメイトの言葉に応える。

「まあ、長期休みにこの学年で補習受ける程落ちぶれてないから」
「うわ出たよ、秀才の無自覚嫌味発言。無駄に頭いいってのも考えものねー奥様」
「いいから早く先生んとこ行けって」
クラスメイトの茶化すような言葉を流すと、そいつは笑いながらも少し呆れたようにため息を吐いた。

「本当にお前、感情が全く顔に出ないよな。先輩の前ではあんなに崩れるのに」

まあ頑張れ?と謎のエールを俺に送って、そいつは廊下へと向かった。
一方、空き教室で一人になった俺は、椅子に座ったまま天を仰いで長く息を吐く。

幼い頃は一緒にいられるだけで良かったのに。何でよりによって、歳上の癖に抜けてるあんな奴を好きになってしまったのか。

「本当厄介…」
天を仰いだ状態のまま顔を覆って、気付けば誰にも聞こえない程度に小さく零していた。

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