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【短編小説】顔

友人と喫茶店でお茶している時、こんなことを言われた。
「あんたって食べてる時、すごく幸せそうな顔するよね」

「そう?」
「うん。なんていうか、『今この幸福を味わえるなら、次の瞬間世界が滅んでもいいわぁ…』みたいな顔」

どんな顔だそれは。
更に続けて、友人は言う。

「携帯とか見てる時なんて正直、時々ひどいもんだよ。眉間にこーんなシワ寄ってたりさ」

どんな顔だそれは。
友人の仏頂面を見て、心の中で本日2回目の全く同じ突っ込みをしていると、外から窓越しに聞き覚えのある音が聞こえてきた。

「雨だ」
「雨だね。傘持ってきてる?」
「まぁ一応は」

私は言いながら、鞄から折りたたみ傘を取り出す。すると今度は友人に突っ込まれた。
「柄のファンシーさよ」
「え、可愛くない?猫柄」

犬派か猫派かと言えば私は猫派である。しかし個人的には派閥同士の争いを好まない穏健な猫派なので、他の断固犬派の友人の話に合わせたりもしている。
そんな私の様子を見ては、彼女が毎回「よく気疲れしないね」と声をかけてくるのがお決まりの流れになっていたりする。

「外出たら完全にお披露目することになるけどさ。結構可愛いよ」
そんな私を見て、友人は柔く笑ってみせた。

「アタシ、あんたと友達で良かったわ。もはや歩く癒しスポットだよね」

「何それ?」


果たして、傘の猫柄について語る私の顔は、彼女の目にどう映っていたのだろう。

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