【短編小説】魔王様のおしごと
「ふふふ…よくぞここまでたどり着いた。勇者よ」
お決まりの台詞にお決まりの動き。俺達は所詮、プログラミングされたデータでしかない。
「魔王…!今度こそ貴様を倒してやる!覚悟しろ!!」
声高々に宣言し、目の前の女勇者は俺に飛びかかる。この戦闘シーンもきっと、誰か別の世界の住人が組み込んだものなのだろう。
それに気付かない彼女は幸せ者だな。
そう思いつつ、俺は女勇者に照準を合わせ、雷の魔法を撃ち込んだ。
「今回も圧勝でしたね、魔王様」
戦闘後。部下の魔物が声をかけてきた。
「何度戦おうが魔王様が負けるわけないのに…本当に哀れな奴ですよ、勇者という人種は」
「お前はあっさり倒されていたがな」
俺が一言そう付け加えると、その魔物は頭を搔く。
「あちゃあ…やっぱりバレてました?」
「あれ程陣形を崩すなと言っていたのに、突っ走るのはお前の悪い癖だ。いいからさっさと持ち場へ戻れ」
はぁい、では失礼しまぁす。と間延びした返事をしながら、その魔物は勇者が最後のステージと呼ぶこの魔王の間から出て行った。途端に静けさが戻る。
直後、俺はこの場に誰もいないことを何度も確認し、マップには決して表示されることのないとある区画…もとい秘密の小部屋のドアを開け、ずんずんと奥に進む。
最奥にある南京錠のかかるドアの前に着いた。その前である呪文を唱えると、南京錠が音を立てて外れる。
部屋の中へ入り、内側から何重にも連なる鍵を閉めた。
さて、と部屋を見回す。
壁一面に設置されたモニターのようなもの。そこに映るのは先程戦った女勇者の歴代のステータスだ。俺はそこへ、部下達に隠れて取得した、戦闘能力のデータをスキャン出来るスキルで最新の女勇者のデータをアウトプットさせる。
新たに加えられたそのモニター画面には、あの勇者の顔写真から現在の基礎ステータス、持ち物に至るまで全て映し出されていた。
「んんん、やっぱ可愛いなぁもう!」
見ているだけで自覚出来る程に顔が熱くなる。思わず両手で頬を挟み、気付けば普段保っている威厳とは遥かにかけ離れた声色で、そう言って悶えている自分がいた。
恐らく今の俺は、ニマニマと薄ら笑っててとても気持ち悪いんだろうな。一瞬我に返ってそう思ったが、抑えが効かないのだから仕方ない。
「彼女が俺に勝負を挑む度、負けてもレベルが上がり強くなっていく…。はぁ…たまらん」
前提として補足しておくが、俺はマゾではない。彼女の強さと名誉の助けになるのなら、倒されるのもやぶさかではない、と言いたいのだ。
それに俺は、魔王として生まれてきたことを何より嫌悪していた。そんな誰にも言えない悩みを抱え続けていたある日彼女がやってきて、俺を倒しにきたのだと言った。
平和の名の元に俺を倒したがる彼女と、魔王としての生を終わらせて欲しい俺。
ある種の運命の相手だと思った。
「早く強くなって、俺のこと倒してくれないかなぁ」
その為ならば、俺は何度でも彼女の前に悪役として立ち塞がるつもりだ。
例えこの想いでさえ、どこかの誰かにプログラミングされたものだったとしても。
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