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緑の夢

最近脈絡もなく、昔プレイしたクロノトリガーのあるエピソードが胸に浮かんでくる。ロボが荒地を400年間耕し続けて森を蘇らせるエピソードだ。

砂漠と化した大地をもう一度森に戻したいというフィオナの夢を叶えるため、ロボは中世の世界に残りフィオナを手伝うことに決める。主人公たちは、タイムマシンで400年の時を越えてロボに会いに行く。森は蘇り、ロボの体は神殿に安置されていた。

泥にまみれたロボの400年は、主人公たちにとっては一瞬だった。残酷な話である。

その後、ロボは焚き火の前で仲間に、400年を過ごす中で「人ではない、もっと大きな存在」の可能性に気づいたことを語る。この場面ではロボ自身が400年を通じて「大きな存在」に近づいたことが示唆されている。それは神殿に守護神として祀られていたことでも示される。

ここで思い起こされるのが、ドストエフスキーの小説『悪霊』に出てくる一場面だ。

「いいですか、労働によって神を手に入れてください、すべての本質がそこにあるんです、なければ、消えてしまいます、あさましいカビ同然にね。労働によって手に入れてください」
(中略)
が、スタヴローギンは、じっさいには笑っていなかった。
「労働によって、それも百姓をすることで、神を手に入れることができるとあなたはお考えなんですね」しばらく考えてから、彼は、何かしら一考に値する、新しい、重大なものとほんとうに出あったかのように問いかえした。

神とは何か?大きすぎる問いかけだが、例えばそれは死や虚無を超えた存在と言えるかもしれない。

400年の労働の中で、ロボは考えたのではないだろうか。果たして本当に森は蘇るのか。本当に仲間たちは400年後にやってくるのか。自分がいずれ壊れて無くなってしまうのなら、この作業の繰り返しに意味などあるのか。

それでも、ロボは働き続けた。

焚き火の後に一人、悲しい思い出(=死ぬ時に見る夢)と向き合ったルッカに、ロボは宝石をプレゼントする。400年かけて体内で熟成させた、木の樹脂だ。「緑の夢」のエピソードは、そんな場面で終わる。

30を過ぎて、おぼろげながら人生の行く末を意識し始めた私の心にこの物語が顔をのぞかせたのは、偶然ではないかもしれない。

物語は宝石と同じで、時を超える。果てしなく続く労働の末、荒れ果てた大地がやがて森へと変わっていく。そんな緑の夢は、かつてクロノトリガーをプレイした幼い私への贈り物でもあったのだ。

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