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readingじゃない、scanningなんだ

webサイトの記事・企画に携わるようになって、否応なく感じたことがある。

私と若い世代の、テキスト情報の読み取りスキルは、もう全然違うのだ。


私は昭和の頃から続く活字中毒者だった。

あの頃、印刷してある文字は魔法の呪文と同じで、絶対の魔力を持っていた。自分の言葉を文にするには手書きしか手段がなく、本や新聞雑誌やお菓子の成分表示に至るまで、印刷文字は「正義」であり「権威」であり、間違いなどあってはならないものだったからだ。ありがたく拝聴します、というような雰囲気があった。

時代は変わり、今や自分の意見や感情を文字に載せて、いつでも誰でも発信できるようになった。検索すれば、あらゆる情報が目に入る。

欲しい情報を求めて紙媒体を購入することがほとんどなくなった。新聞もスーパーのチラシもwebサイトでチェックする。ゴミも減るし、アーカイブの置き所にも困らない。写真が色あせることもないし、読みたいときにすぐ検索して部分表示もできる。文字情報は一番手軽で早い情報となった。

この間、しばらくぶりに新聞を読んだら、えらく疲れた。

これって一体なんだろう…と考えて、船酔いに似てるな、と思ったのだった。

船というか、文字酔いだ。新聞紙面は両面広げるとほぼA1サイズ、視界いっぱいに文字の海が広がる。その波に緩急のリズムをつけ、幾つもの記事と記事の区別を図るために、見出しを大きくしたり、小見出しを入れたり、写真を挟み込んでいる。そのレイアウト芸は完璧に近く、若かった頃は違和感なく隅から隅まで読んでいたが、デジタルの昨今では、動きの振り幅に無駄が多いと感じてしまうのだった。総じて古い、とも感じる。

新聞や雑誌、紙媒体は読むためのメディアだ。読み手を必要とし、意識的に読もうとしなければ情報が拾えない。そのために飽きさせない工夫が施してある。

しかし、web上で文字を追う意味はもう違うのだ、と気づいた。

webでは文字情報の流れは大抵1方向だ。川の流れのように、上から下へ流れることがほとんどである。その流れを邪魔しないフラットな見た目と平易な文体が好まれる。web画面にリズムや緩急はいらない。情報の取捨選択は読み手にある。

webのテキストは読んでいるというより、見ているに近い。

これはスマホが普及して、webのデザインフォーマットが固まったからもある。幅数センチの川の流れに視線を固定して、自動的に情報を取り入れている。これはスキャニングに近い行為だ。目が動くのではなく、画面を動かしてみるのだ。動体視力を鍛えているに近い。プレーンな文字、平板に並んだレイアウトが歓迎されるのだ。

息子の大学受験の際の問題テキストを思い出した。

平易な文章がダラっと続き、問いと本文の区別もつきにくい見づらいデザインで組んである。受験生に余計な印象や情報を与えないための策でもあるのだ。

しかし、受験生である息子は慣れた手つきで、文中のキーワードと思しき言葉に丸をつけ、接続詞や代名詞に記号を振って、読みながらタグ分けをしていた。

「そうやって印をつけて読むと、わかりやすくなるの?」と聞くと、「わかりやすくはならないけど、設問で聞かれたところを見つけやすくなるし時短になるだろ」という。これもブックマークを挟み込むのと同じかも。

息子たちは、文体を分析しながらテキストを追うことが日常的な世代なのだ。

彼らは「読む」術よりも「見て判別」することの方に重点を置いているように思う。長い文章やわかりにくい文には時間を割かない。単語を拾い読み、前後の区別で判断しているように見える。意識的にしないと文章を読み込まない。

しかし平易なテキストの流れから、自分が欲しい情報を見つけ出すセンサーに長けている。

私が新聞や雑誌に慣れ親しんで、花壇の花を愛でるように文章を味わった経験を、彼らはほとんどしていない。彼らにとって文字は情報である上に、電気や水道と同じインフラの一部で、過剰な思い入れがない。空気のように、あって当たり前なのである。文字情報にはシンプルなデザインが求められ、先入観や余計な情報が入るのを嫌う。

そのフォーマットに乗った情報だけが、今後生き残っていけるだろう。

息子や娘のラインのやりとりやtwitterのつぶやきを見ても、平板なテキストのやりとりが主であり、親世代がメッセージの中に顔文字や余計なスタンプを挟み込むのに対して、徹底的に口文で短文なのが特徴だ。

彼らにとって「書く」行為はもはや鉛筆を握って文字を書くことではない。スマホのフリック動作やキーボードの打ち込みで、自分の声を記録することである。

何をどう書くのか。

今まで以上にスピードと正確さが問われることは間違い無いが、それ以上に「感情」や「情熱」の加減も問われるようになる。

時代が求める情報は、これからは質やスピードだけではなく、重量も重視されるだろう。

軽くて明るくて見通しの良いテキスト、そんな情報が求められる新しい時代がきたのだ、と感じている。

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