見出し画像

実録!受験の沙汰はカネ次第 1

12月16日 三者面談

最後のセンター試験まであと一ヶ月、自称進学校の高校三年生・息子の教室で、担任の先生と私と息子の3人で向かい合って座っていた。挨拶もそこそこに、A43枚に渡ってプリントされた、大学名と学部名の入ったエクセル一覧表を渡される。

各大学の受験日と合格発表日、入学金の入金締切日がカレンダーに書き込まれていて、一目で確認できる。すごいなぁ〜先生、ありがとうございます。

しかし、この表に書き込まれた大学の数、数えると15校…

「こんなにお金ありません!多すぎます!減らして下さい」

息子が不貞腐れたような顔で言う。

「人生決める大事な勝負なんだよ。金、惜しんでる場合じゃないんだよ」

「ないもんはないんだよ!打ち出の小槌があるわけでもないんだから!限られたリソースの中で確実に合格できる戦略をたてないと!!」イラッときて私も言い返す。

そんなこんなで親子で押し問答、先生も困り顔で「まあまあ、これはあくまで希望なんで…ここから話し合いしましょう」とパソコンの画面を広げる。

「息子さんの偏差値だったら、この大学はセンター試験出願で大丈夫ですし、出願料も18000円ほどですみますよ、一般入試の35000円の半額ですみます」

そうですかーーそれなら良いかな…っていや違う、受けることには変わらないし、お金払うことも変わらない! なにそのセールストーク!!

「それで、これは私立の大学受験一覧ですが、国立の志望校の話を…」

先生は画面に、先月の模試の結果と第一志望の大学名を映し出す。

そこには息子の希望、というか願望があった。

「だめだめだめ!こんな大それた大学、身の程知らずです」

「受けるのは俺なんだけど!」と息子。

「金出すのは私なんだけど?」と私。

「まあまあ、おかあさん」担任が間に割って入り牽制するが、私は息子にぐっと顔を近づける。

「現役合格が一番大事!そして自宅通学!もうずっと言ってるよね、分かってる?」

「でもですね、考えようによっては、自宅から遠い私立大学まで通学する交通費を考えたら、下宿してでも旧帝大系国立大学に行くのと変わらないということも…」

思わず先生の言うことを遮って、強い口調で言った。

「あのねぇ、一人暮らしするっていうことはつまり、生活するってことなんですよ。交通費代わりなんて騙されませんよ!家賃食費光熱費雑費、学校での教材やら本やら、急な出費もあるでしょう!地方は受けません。下宿は却下です。奨学金を含めた予算の範囲内で、受験考えなさい」

ちぇっ。という息子の独り言が聞こえてきそうだ。アホなのか、この担任。丸め込もうって魂胆がみえみえなんだよ。

息子と担任の先生は顔を見合わせて、低い声でぼそぼそと、私の方を見ないまま話し始めた。

「じゃあ、国立はH大学にするかな」と息子が言うと

「いやいや、T大学に挑戦してみろよ、トップ・オブ・ジャパンだぞ。今から頑張ればなんとかいけるぞ」先生がけしかける。

は? もしもし、まだ寝言いってるんですか!この模試の結果を見て、どうしたらトップ・オブ・ジャパンを目指せとか言えるんだろう。男ってプライドだけで生きてるんだな。H大学だって、今までに一度もA判定どころかC判定だってとったことないじゃないか!!我慢できずに割り込む。

「Y国立大学にしなさいよ!A判定でてるじゃん」

「やだ。それならW大学かKOに行きたい」

「行けるなら行って欲しいわよ!でも、受からないといけないのよ。受かるの?」

我慢できない、というように息子も声を荒げる。

「俺は三年間、それなりに頑張ってきたよ。成績も学年トップ10以内をキープしてきたし。その成果をここで試させてもらってもいいんじゃないか?受かるかどうかは受けないとわからない」

まあ、そうよね…気持ちはわかる。

でも、ない袖はふれないのだ。

先生は、にらみあう私たちをみながら「あのーーーT大は…」と口ごもる。

「受けません!!」

おお、二人の意見がここだけは一致したな。そりゃそうだ。T大受験なら二次試験で、五教科受けなくてはならない。そんな実力はないのは本人が一番分かってる。…でもこの模試の成績を見る限り、H大学だって四教科受験なのだから「実力」という意味ではアヤシイけれど。

学年全体の実績をあげたい先生は、なんとか受けさせたくて残念かもしれないが、こっちは息子の人生がかかっているんだ。そんなチャレンジングなことできない。

「受験するのはあなただから。国立は受けたい大学を選んでも良いよ。でも私大はキープも含めて、もう少し減らして。この勢いで出願されたら、滑り止めの分の入学金まで手が回らないよ」

「分かった。この大学はやめる。受けない」

息子は合格しても入学しないと思われる大学を表から消した。それから3人で、やいのやいのと一時間。ようやく出願する大学を決めた。

それでも12大学、18学部。

あああ、本当にどうなるのか…

神様、お願いです…どこでも良くはないけど、どこかに合格して無事大学生にしてください!!

春になったとき、息子が笑っていますように。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?