総合商社の片隅から:消えゆく商社マン的フラグランス
商社マンという言葉ほど独り歩きし易かった言葉もあるまい。
「まったく商社マンって奴は、お金儲けの為なら殺人以外はなんでもするんだな」
と真顔で言う人もいた。もっとも、これはクリニックに性病治療に行った同僚が医者から言われた言葉で、また聞きではあるが。今ではそんなイメージどころか、男前提の商社マンという言葉自体がほぼ死語だ。ただ、私が入社した四半世紀前は、アルコール抜きでは語れないような恥ずかしい話を「武勇伝」として誇らしげに語るようなナルシストが集合したかのような有り様で、まあ遠からずも当たらずという印象だった。
私が今も勤務している職場では、転勤や異動などで部署を去る前の最終出社日に、同じ部署の人が総立ちで「ハナパチ」と呼ばれる儀式が執り行われる。
従来、送別のお花を手に持って上司や同僚からパチパチと拍手で送られることからこう呼ばれるのだが、このサラリーマン人生の節目に、去ることになる部署で経験した「とびっきりのエピソード」を披露するのが慣例になっている。ここで、どれだけ興味深い話が出来るかで、その人の仕事振りが白日の下に晒されるともいえ、閻魔大王の面前よろしく最も緊張すべき審判の場だ。
私が数多くの「ハナパチ」の場で聞いて来た話しは、どれも「商社マン」という言葉が醸し出すオーラそのもののようなエピソードばかり。当然、話の途中で爆笑が湧きがることも珍しくない。
私も、そろそろ人生の節目を迎えつつあることもあり、記憶が消え去ってしまう前に、披露するに値すると思われものを、秘密保持義務にもプライバシーにも触れないよう中身を蒸留させたエッセンスにした上で、香水を一滴ずつ垂らすようにご紹介していきたい。