見出し画像

インドの経済政策の狙い(1)

7%成長を続ける経済成長著しい人口大国インド。日本ではあまり大きく取り上げられませんが、ここ1年強の間に大胆な経済政策が立て続けに実行されています。インド事情に詳しい人には、今更感があるとは思いますが、3つほど回を分けてご紹介したいと考えてます。

第1回目は、今から1年前に実施された、突然の旧高額紙幣の無効化宣言、です。高額紙幣といっても、日本円にして850円相当の500ルピー紙幣と1700円相当の1,000ルピー紙幣の2つですが。

発表されたのは、現地時間で2016年11月8日の夜8時ごろ。世間ではアメリカのトランプ大統領誕生で大騒ぎになっていた渦中でした。テレビを通じインドのモディ首相が、11月9日午前零時をもって2つの高額紙幣の無効にすることを突如発表し、インド経済は大きな混乱に陥りました。

対象となった500ルピー紙幣と1,000ルピー紙幣は、無効化宣言時点において、インドで発行されている全紙幣の86%(価値ベース)を占めていたそうです。

普通に考えても大混乱必至の突然の無効化宣言ですが、インド政府の狙いはいったい何だったのでしょうか?

3つほど挙げると、①GDPの2割とも言われる地下経済を表に出すこと、②経済活動の捕捉によって税収の確保すること、そして、③キャッシュレス社会の早期実現、です。

インド国内では、野党を中心に無効化には意味が無かったとの批判が聞かれますが、当初、課税を逃れて不正蓄財をしている富裕層に対する懲罰効果を期待していたと言われています。

仮に無効化された紙幣うちの2割が地下経済にあって、その価値を失えば地下経済関係者は約3兆ルピー失う計算になりますが、2017年8月末のインド準備銀行発表によると、無効化された総額15.4兆ルピー(1ルピー=約1.7円)のうち99%に当たる15.28兆ルピーが預金などで市中から回収されたそうなので、実際に効果があったのは差額の0.12億ルピーだけ。期待値が3万に対して実際には0.12ですから、効果は無きに等しかったと批判されている訳です。

しかし、地下経済関係者への懲罰効果自体は失敗だったとして、本当の狙いが、先に挙げた3つとした場合、どう評価できるでしょうか?

①の地下経済の透明化については、新紙幣の絶対数が足りないこともあり、なんらかの形で預金化されました。過去に不正蓄財した所得に対する課税は殆ど出来ませんでしたが、多くの国民が銀行に足を運び、銀行口座を開設することになりました。

②の税収確保ですが、インドは所得税を支払っているのは全国民の3%しかいないと言われていますが、それでも、2017年8月末までの時期、所得税の申告数、税収、調査件数が大幅に増えたことが発表されています。インド政府の本年度予算の所得税見積り額は4.4兆ルピーで前年度比9千億ルピー(約25%)増となっています。

③キャッシュレス経済の実現は、どうでしょうか?キャッシュレスというとICカードとかクレジットカードを連想しますが、中国のように身元確認された正規の銀行口座とスマホさえあればモバイル決済が可能な時代です。まだ規模は小さいもののモバイル決済の伸び率は高く、本人確認済みの銀行口座を通じたキャッシュレス取引が増大し、長い目で見て、地下経済も減少することに繋がります。

まだ定量的な実績には乏しくても、キャッシュレスでの決済インフラの整備が大きく進んだことが分かるのではないでしょうか?

次回は、今年7月1日に導入されたGST導入効果について触れたいと思います。

(2)へつづく