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ラオスにいったい何があるのでしょうか?

2月末にバンコクで開催されたラオス経済・投資フォーラムを覗いて来ましたので、ちょっとしたまとめになります。決してラオスの専門家ではございませんが、色々と感じる点もございましたので、ご参考までに。

名称:ラオス経済・投資フォーラム in バンコク
日時:2017年2月28日(火)14:00~17:00
場所:AETAS Lumpini Hotel 8階
主催:国際機関日本アセアンセンター、ラオス計画投資省
後援:JETROバンコク事務所、タイ投資委員会(BOI)

1.基調講演:日系企業投資への期待

講演者:ラオス計画投資省投資促進局 マナトーン・ボンサイ局長

・ラオスは人口は僅か660万人。一人当たりGDPも2016年に2000ドルを超えたところ(2016 年で2027ドル)ではあるが、首都ビエンチャンでは全国平均の2倍以上の4780ドルに達している。

・ラオスは人口の72%が農業に従事しているが、農業のGDPに占める割合は22%に過ぎず、年率7~8%の経済成長は、工業化(就労人口割合20%、工業GDPに占める割合29%)や、サービス業(就労人口割合8%、サービス業のGDPに占める割合39%)の急成長によって成し遂げられている。

・2016年11月にラオス国会で承認された第8期社会経済開発5か年計画(2016-2020)の経済開発目標は、近年の経済成長ペースである7%~7.5%の成長を持続させ、2020年に一人当たりGDPを約3000ドルまで拡大させて、低開発途上国(LDC)から脱却すること。

・キーワードは、開発・環境・社会のバランスを配慮した「グリーンで持続可能(サステイナブル)な成長」。2016年11月にラオス国会では目標とする経済成長率の下方修正を承認している。

・国別でみた場合の日本のラオスへの投資総額は第6位。1位の中国、2位のタイ、3位のベトナムと比較して1/8~1/12の規模。この後紹介するラオス投資環境の整備、ドライ・ポートの設置等による物流環境の改善、豊富な観光資源の魅力アピール等により、日本からの更なる投資を期待したい。


2.最近のラオス投資環境、ラオス投資の利点と課題

講演者:ラオス計画投資大臣特別顧問 鈴木基義氏
(鈴木氏は2013年までJICAのラオス専門家。現在は独立し、無期限で特別顧問の職を得ていると言われている)

Rio Tintoと三井物産によるボーキサイト鉱山開発を筆頭に、水力発電開発案件、日系企業の進出事例を紹介。自動車用ワイヤーハーネス生産、精密部品加工(ニコン)、縫製業(紳士服)、靴製造、かつら製造(アデランス、レオンカワールド)などの事例紹介あり。


3.ラオス工業団地等最新事情

・現在、ラオスには12か所の経済特区(SEZ)があるが、現在、開発中のところもあり、そのうち9か所が入居可能な状況。セミナーでは、そのうち以下の2つの経済特区が紹介された。

1)サワン・パーク

ラオス中部サワンナケート(空港から5km)に位置し、サワン・パークは、954haあるサワン・セノ経済特区のエリアC(工業団地)部分に相当する。日本企業ではIDCが2016年3月に入居。

2)パクセージャパン中小企業専用経済特区(日系専用)

ラオス南部チャンパサックにある都市パクセの中心部から17kmにある195haの特定経済区。日本の西松建設が出資参画(20%)している。チャムパサック経済特区を構成する特定経済区の一つ。

・ラオス側の戦略として、人口規模も限られることから、タイのような大規模な工場の進出は追わず、むしろ撤退時のリスクが分散されるように中小企業(募集人数は数十人から百数十人規模)を対象としているのが特徴。

・弱点である物流コストは、ドライ・ポートの整備により通関手続きが短縮化され、タイのレムチャバン港まで陸路で8~10時間となりリードタイムとしての格差が縮小している。また、今後の道路網の整備によりタイ以外にもカンボジアのプノンペン港やベトナムのダナン港も、所要時間としてほぼ等距離(約8~9時間)にあり選択肢が増えていくことになる。


4.ラオス観光資源紹介

プロモーション・ビデオでの発表。


知られざるラオスの観光資源(自然環境を利用したアドベンチャー・ツアーの魅力)を盛んにアピールしていた。

旅行代理店業の外資に開放されている(70%まで外資による出資が可能)。[](http://www.lao.jp/)

情報文化観光省による日本語によるラオスの見どころ案内ウェブサイトあり。


5.「ラオス投資環境のSWOT分析」

講演者:JETROビエンチャン事務所長 柴田哲男氏

ラオス進出を検討する際には、ラオスの強みを生かしつつ、弱みをどのように相殺するのかを考えることが重要。(例えば、軽く小さいもので手作業が必要となるものが有利になる等)

弱みの1つである物流コスト(ビエンチャン-横浜間のコンテナ物流コスト)なども定点観測しているが、物流環境整備が進み、毎年約150ドルずつ下がっている。よって、従来からの弱みが段々弱みでなくなりつつあることは注視すべき点であろう。

ラオスのSWOT分析の内容は以下の通り。なお、ラオスの「人」については強みでも弱みでもある。

・強み(Strengths):
安価な労働力、器用な労働者、若い国民(平均24.4才)、安価で安定した電力、豊富な資源(土地、水、鉱物)、タイ+1で見た場合のラオス語とタイ語の共通性

・弱み(Weaknesses):
気迫な人口(660万人)と離職率の高さ(農繁期になると10~20%が辞める)、生産性の低さ(中国の労働者6~8割程度)、開発権取得のコスト・所要時間、タイへの出稼ぎ労働者が多い(20~30万人と言われる)

・機会(Opportunities):
投資優遇税制、経済特区(SEZ)の開発の進展、個人消費の拡大、インフラ整備(鉄道、道路、ロジパーク等)、規制緩和(特にサービス業)、国境を跨ぐ交通協定の整備(CBTA、三国間輸送協定、電子通関制度)、地価の上昇、年14~15万人の新規労働力の供給

・脅威(Threats):
ラオスの財政赤字と税制改革(税収の増収策)、限られた労働力の取り合いの懸念、労賃の上昇、インフラの未整備・管理不足、法律の急激な変更や不透明な運用、物価の上昇(年率4~6%)、通貨(キープ)高(現地通貨キープを米ドルの動きに連動させる為替政策をとっているため)


6.まとめ(当方所感)

・ラオスは2013年2月1日にWTOに加盟し、内外無差別とする統一投資奨励法など投資関連法の整備は進んできたが、一方で国としての税収確保の為に法人税のアップや、一律10%だった個人所得税の累進課税化(とはいえ最大で24%)や、10%のVAT(付加価値税)導入など、急激な環境変化している。

・いままで、国内での競争も少なく、良くも悪くも皆が貧しい中で、幸せを分かち合ってきたラオス国民が、急激な市場経済に巻き込まれつつあるという印象である。社会主義である故に組合問題もないが、今後、貧富の差が広がれば、労働争議に近いことも起きてくるだろう。人件費の安さを競争力の源泉と出来るのは時間の問題と思われる。

・タイと異なり、日系資本のプレゼンスが低く、周辺国(中国、タイ、ベトナム)のプレゼンスが想像以上に高いことに脅威と機会損失を感じられる。自動車も依然は日系車種が人気であったとのことだが、近年は月賦販売を武器に韓国車(HYUNDAIやKIA)が人気にて、マーケット動向についてより現場に密着した感覚が重要。

・旧仏領インドシナであり、フランス人に人気(常時10万人以上が滞在しているといわれる)。観光資源開発は、欧米人向けにアレンジされており、東南アジアのスイスと言われる所以だろう。プロモーションビデオは日本人的には、欧米人に好きにされるアジアという図で、面白いとは感じられなかった。(上記の添付Youtube動画とは別の内容)

・外資規制については、業種にもよるが、最低資本金額を超えれば100%外資に開放している業種が多く、タクシー業、レストラン、銀行業、医療などあり。セミナーの説明を聞く限り、見過ごしている投資機会やビジネス機会も多いかと想像される。


・個人的には高原の気候を生かした、いちごやシイタケなどの日本から持ち込んだ農産物の生産事例が興味深かった。(生産が注文に追いつかない状況とのこと)

・ラオスに関わっている日本人は少ない分、世界が狭い。新参者は、在ラオスの日本人社会の状況調査を含め、細心の注意が必要だろう。

・村上春樹の紀行文「ラオスにいったい何があるというのでしょうか」ではないが、美しい光と風の下で、ゆったりとした時間を過ごすところだろう。ラオスには電源(水力発電による電力輸出)と、鉱山と、観光資源があるとはいえ、人口の少ない内陸国であり自ずと限度がある。徒に規模を追うのは得策ではないだけに、知恵を絞れる面白味があるかもしれない。

以上