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インドの経済政策の狙い(2)

現在、人口約12億人のインドは2024年に中国を抜き、世界最大の人口国になると予測されています。

生産年齢人口の拡大もあって、かつてない消費大国に変貌しつつある、そんなインドで、昨年(2017年)7月1日、全国一律のGST(Goods and Services Tax、物品・サービス税)が導入されました。

それまでのインドでは、間接税の種類が多い上に州ごとに税率が異なり、その複雑さがビジネスの大きな阻害要因となっていました。統一GSTの導入により、間接税のうち17の税及び特定目的の23の課税がGSTに統合されました。また、インド国内の複数の州を跨がる取引の際に生じる仕入控除の問題も解消され、インドのビジネス環境は大幅に改善されることになりました。

同税制改革は、10年越しの課題で、モディ政権による経済改革(モディノミクス)最大の成果とも言われています。その内容とインパクトを少し掘り下げてみましょう。

1.基本税率は4つに集約

基本税率は、農産物や医療、教育などが0%(免税)であるのを除くと、必需品や庶民向けサービスを対象とした5%、加工食品や工事等のサービスを対象とした12%、日用品や金融・通信サービスを対象とした18%、贅沢品や娯楽サービスを対象とした28%の4つに分かれています。

航空券に掛かるGSTの税率が、エコノミークラスとビジネスクラスで異なるのが個人的には目を引きました。

レストランもエアコンの有無で税率が変わります。(写真はニューデリー内のレストラン)

但し、各州政府に対する譲歩と低所得者への配慮からシンプルな税体系からは程遠く、個別の租税率の多く残っているのが実態です。

2.サプライチェーンの最適化による企業の生産性向上

統一GSTの導入によって、州を跨ぐ取引について仕入税額控除が可能となった点は冒頭で触れましたが、従来、節税策として州ごとに置かれていた物流倉庫が、より配送効率を重視した配置となって集約が進むことが考えらえます。

また、州を跨いだ物流自体の迅速化効果も予想されます。従来、積荷を運ぶトラックは州境を越える際には、「チェックポスト」と呼ばれる検問所で積荷検査を受けなければならず、待ち時間と検査コストがかかっていたのですが、GST導入によって州境を越える際の税務手続きが省かれることになりました。

実のところ、州境は役人が賄賂を求める利権の巣窟となっており、法外な袖の下を払うか何日も足止めを食うかの選択を迫られていました。つまり、検問所がなくなって州境をまたぐ物流がスムーズになるほか、輸送時間も読みやすくなるなど物流効率や生産効率が大幅に改善するわけです。

3.政府の税収効果

電子納税による課税逃れの減少を背景に課税ベースが拡大するため、政府は歳入が14%ほど増加すると試算されています。課税逃れが減ると、地下経済などの非公式経済が経済統計で捕捉できるようになります。つまり、これまで経済統計で計測されなかった部分が表面化してGDPは底上げされるわけです。これらを福江m他、GST導入によるGDPの押上げ効果は、政府試算によると長期的に+0.9~1.7%押し上げるとみられています。

なお、GST導入に際しての妥協の産物ですが、中央政府による州政府への税収補償制度があります。これは、GST導入の影響で州政府の歳入が減った場合、政府が徴収する統合GSTや最高税率28%に上乗せする租税率から得らた税収を基に積み立てたGST補償基金を使い、税収補償として連邦政府が州政府に最長5年間の補助金を出すことになっているものです。

4.マクロ経済への好影響

中長期的には、マクロ経済への好影響を与えると考えらえます。まず民間部門では、企業活動の生産性向上によって成長分野への投資余力が拡大する他、輸出に際して仕入税額が還付可能になったこともあって生産力の向上と輸出拡大が同時進行し、ビジネス環境の改善によって外国資本の流入も拡大することも予想されます。

また企業収益の拡大は、雇用・所得環境の改善や配当の増加、商品価格の値下げへと波及し、家計部門の所得増加とインフレ率低下という形でGSTの恩恵を享受することになります。

実質的な可処分所得の増加を通じて消費拡大が見込まれ、結果として、GSTはビジネス環境の改善を梃子に自立的な経済成長を後押しするものと考えられています。

今回は統一GSTの経済効果について大枠に触れてみました。次回(最終回)は、アーダール・カード(インド版マイナンバーカード)取得義務化がもたらす経済効果について触れたいと思います。

(3)につづく