アガペー 無条件の愛

 古代ギリシャ哲学に基づいて、【愛とは何か】【生命とは何か】【幸福とは何か】について考察しました。これらは我々人間が健全に生きるために、とても重要なテーマです。
 日本語の【愛】の意味は「可愛がる。愛しく思う。慈しむ。いたわる。恋する男女が思い合う。親しみを持って寄りかかる」などとされています。
 ところが、古代ギリシャ語には、異なる意味を持つ三つの【愛】の単語がありました。それは ①アガペー(agape)、②フィリアー(philia)、③エロース(eros) の三つの愛です。 古代ギリシャ人の知的能力・緻密さ・言語能力は、もの凄く高度です。
 ①【アガペー】とは【神の愛】のことです。それは【全知全能の神の属性である無限の力・無条件の愛・生命活力の源】です。私たち個別の生命体(bios/ビオス) は、神の生命活力(zoe/ゾーエー) の一部であり、神の無限の力によって、生かされている存在です。
 【 万物の第一原因】である神さまは、宇宙万物自然界の一切全てを産出された御親です。いまでも、如何なる時にでも、それらの全てを自分の中に含んで、育てておられます。ある言い方をするならば、私たち人間は神さまの持ち物なのです。 私たちは決して自力で生きているのではありません。神さまの他力によって生かされている存在です。
 母なる親神は、自分が生んだ子供(宇宙万物自然界) の全てを愛しておられます。父なる親神は、子供たちがたくましい神々に育って欲しいので、さまざまな試練を人間に与えて厳しい訓練をされているようです。
 私たち人間は、あまり気がついていませんが、神さまはそれなりの厳しさを伴う自然界における全ての生命体が健全に生きるように、つねに見守って面倒を見ておられるのです。それが【アガペー】、すなわち『神の無条件の愛』です。
 私たちは【アガペー(神の無限の力と無条件の愛 )】の中に居ることを認識して生きることが最高の幸せです。それが原初の楽園・理想の世界の生き方だったのです。私たち現代人はその【理想の世界】を復活させることが求められているのです。
 ②【フィリアー】は、親子・兄弟・友人間に成立する人間的な愛・友情・友愛であり、これはわれわれが日頃、実行していることです。
 ③【エロス】は、男女の愛・情欲的な愛です。これは必ずしも相手のためではなく、自分のための自己本位の愛かも知れません。
 【ファリアー】と【エロース】の二つの愛は、どちらかという言うと人間的な自己愛、エゴに基づく愛ですが、その二つの愛しか知らない人間が多いようです。信仰を持たない人間の場合、②【ファリアー】と③【エロース】の世界に留まることになり得るでしょう。
 われわれ人間が本当に求めているのは【平和と幸福】です。それが得られるのは、私たち人間が【アガペー ( 神の愛 ) 】、すなわち無限の力・無条件の愛・生命活力の根源としっかりと繋がることができた時なのです。それが【信仰】なのです。【信仰】とは『自力だけに頼るのではく、神さまの他力をいただいて、自分のため・世のため・人のために、無私の心で生きること』です。
 自力ではない、他力である【神の無条件の愛】が、時間と空間を超えて、何時いかなる時にでも、何処においても、つねに働いていることを知り、【神の無条件の愛】の中に完全に包まれ、それを実践することによって、私たち人間の真実の【平和と幸福】が実現されるのです。
 それは無私の心で、自分のため・世のため・人のために働くことです。それは四苦八苦、すなわち生と死に束縛される有限なる【個別の生命】( bios/ビオス ) を乗り越えて、不死にして無限である【永遠の生命】( zoe/ゾーエー ) として生きることを意味しているのです。

哲学者 水山昭雄

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