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息子とただただ電車に揺られる、とある休日の話

私にとって電車とは通勤や出張の足であり、どこかへ行くための移動の手段に過ぎなかった。
そして、それ以上のことを考えたことはなかった。

息子は電車が好きだ。
日々の愛読書は「鉄おも!」(知らない方は知らなくて全く問題はない)。そして、子ども向けとは言い難い、分厚い鉄道の図鑑も我が家にはある。

一口に電車が好き、と言っても多種多様なアプローチがあるらしい。
写真を撮る。発車メロディを鑑賞する。
車窓を眺める。車両の型番を当てる。等々。

どれも好きだが息子が何より一番好きなのは、実際に電車に乗ることだ。
行った先で何をするか、何を食べるか、何を買うか。そういったことは彼の中では関係ない。
彼はただ、電車に乗りたいのだ。


JR東日本は度々スタンプラリー企画を開催しており、つい先日までは平成時代の列車に特化したスタンプラリーを行っていた。

まだ3歳の息子を連れての全50駅コンプリートは現実的に難しいため、長距離移動は夫にお願いすることにして、我々は近場の駅でスタンプを10種類集めることにした。

しばらく、息子と一緒に電車に乗る休日が続いた。

電車が大好きな息子は俄然乗り気だった。しかしその一方で、降り立った駅にショッピングモールがあろうが、美味しそうなスイーツのお店があろうが、彼にとっては全く関係がなかった。もっと言うならば、スタンプさえ押せればその駅に用はないのだ。
「次いこ、次!」と私の手を引いては改札口へとUターン。滞在時間は5分もない。
あわよくばと駅近くのお店をリサーチしていた私の希望(その土地の美味しいものに目がない)は、彼によってものの見事に打ち砕かれた。

そしてまた、私は彼と電車に乗る。

息子は、基本的には電車の中でも窓の外を眺めて大人しい。
電車に思い入れのない私はそんな彼から、すれ違う電車や特急の種類を教えてもらい、ほんの少しずつだけ電車の知識を増やす。
さすがに彼の前でスマホをいじるのは躊躇われるのでこちらも何もせず、ただただ電車に揺られる。
こんな調子で最短ルートで行けば数駅のところをたっぷり迂回して、私は別路線に乗り換えるたびに運賃を支払い、ゆっくりと帰路に着く。

駅での長期滞在を許さない息子ゆえ、目に見える手土産は特にない。
私も私で、ぼんやり電車に乗っているだけ。この時間で家事や用事の一つや二つ片付けられるだろうに…という気持ちも、なくはない。

ただ、帰宅すると息子は必ず図鑑を持ってきて、ページをめくりながら「今日乗った電車はこれ」「この電車を見た」「今日乗った◯◯線はこの電車と色違いだった」などと指を指して、嬉しそうに答え合わせをする。

それで良いじゃないか、と私は思う。

平日はお互い自宅と職場もしくは保育園の往復だ。
休日くらい、彼がしたいことにトコトン付き合うのも悪くない。

そんな訳で、自分のために好きなように時間を使えたかつての休日も、今の休日も、私にとってはその両方が尊い。
さて、あと半日で休日がやってくる。もう一踏ん張りしようと思う。

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