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わたしの夏は終わった

 急に日が短くなるなんて、そんなことあるわけないのに、いつも夏は突然終わる。もう家にいるのはおとなばかりだから、自由研究や読書感想文に追われることもない。そのかわり、今朝からお盆明けのメールに追われている。
 つまり、わたしの夏は終わった。

 

 

 こどもの頃から夏休みは学校のプールか部活に行く以外は、いそがしい母親に代わって家事をする期間だった。岐阜の祖父母の家に帰省するときを除けば、さほど楽しいこともなかったし、家で過ごす時間の増える夏休みはきゅうくつだった。

 親になってみると、夏休みのいそがしさは昔の数倍にもふくれあがった。こども達が幼かった頃は、朝から晩までごはん作りと洗濯と掃除に追われ、フルタイムの仕事に復帰したら、どうやって昼ごはんを回そうか頭を悩ませた。

 でも、いつしかこども達はおとなになった。もう、無理やりお母さんでいなくてもいいんだ。・・・そう気づくのに、どうやら1年かかったらしい。そのあいだに世の中は扉をあけていて、気づいたら新幹線に乗って遠出できるようになっていた。
 岡山へ行ったり、東京へ二度も出かけたりしたこの夏。きわめつけは、職場の夏季休暇だった。

 山の日からの10日間、わたしは中日ドラゴンズの応援に没頭した。

 振り返ってみると、自分自身のために夏休みすべての時間を使ったのは、もしかしたら生まれてはじめてだったかもしれない。
 朝起きて、電車や新幹線や地下鉄を乗り継いで球場へ行き、声を嗄らして応援して、帰ったらPCに向かって夜中まで記事の推敲をしたり、記事の反応を追ったりする。わたし自身もめいっぱいドラゴンズを応援したし、大島洋平選手へのエールのつもりで書いた記事は、ドラゴンズファンはもちろん、野球を見ない人たちにも、予想以上にたくさん応援してもらった。

 寝ても覚めても野球にどっぷり浸かった夏休み。楽しくてしかたがなかった。

 

 

 今朝、自宅のベッドで目覚めたとき、なんだか魔法が解けたような気がした。通勤用の服に着替えて、いつものルートで出勤し、足早に構内へはいる。
 目が合った瞬間、「おはようございます」と声をかけてくれた女の子たちは、球団の連続試合安打を26試合に更新した岡林勇希選手や、素晴らしいホームランで魅せたあと頭部死球を受けて特例抹消された石川昂弥選手と同い年。彼女たちに挨拶を返した自分の声におどろいた。ふだんから挨拶は笑顔で・・・と心がけてはいるものの、今朝はちょっぴり高い。そのままのスピードで、ドアを開けた。

「おはようございます!」
 この感覚はなんだろう?

 休暇中に溜まったメールをチェックしていても、うんざりしない。もちろん、この感覚が長続きしないことは百も承知だけれど。

 きっと今のわたしは100%なんだよね。寝不足でへとへとになったり、台風で試合がなくなって自宅からほど近い名古屋に泊まることになったり、痛くてつらい現場を目撃してしんどくなった瞬間もあったけれど、フル充電。

 球場やお店で、あらたな出会いもあった。友達はダブルヘッダー2日間もたっぷりわたしに付き合ってくれたし、娘は快くわたしを泊めてくれたし、息子は帰ったら洗濯をしてくれてあった。そして、負けて負けて悔しいけれど、それでもドラゴンズの選手たちが大好きだし、やっぱり大島洋平は特別だった。
 
 わたしの夏は終わった。いい夏だった。
 あとは、大島洋平の2001本目のヒットを待つだけだ。 


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