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京田、アリエル、翔平、そして高橋周平・・・観客席を熱狂させた選手が「ヒーロー」の顔になる瞬間 #文春野球フレッシュオールスター2022

 悩めるドラ1は、いつの間にか大人になっていた。
 5月26日、西武戦。試合後のインタビューで、高橋周平はとつとつと語った。
「今日で終わればいいんですけどね、また明日試合ありますし。結果が出たことは良かったけれど、また切り替えてね。連敗してしまったので取り返せるように頑張ります」
 自らのバットで7連敗を止めた直後のインタビューが、これだ。三者連続タイムリーで観客席を熱狂させた張本人のくせに、全然ヒーローっぽくない。でも、何だかその言葉が心に残った。
 
 かつてのお立ち台。茶目っ気たっぷりに「やりましたー!」を連発して観客席を沸かせた周平は、そこにはいない。


プロ野球選手という特別な人達を

 星野仙一が39歳で監督になり、4対1のトレードで獲得した三冠王・落合博満は日本人初の1億円プレーヤー、高卒ルーキーのショート・立浪和義はゴールデングラブ賞に輝いたあの時代、世の中はバブルだった。
 当時、選手の情報は新聞・雑誌と応援番組くらいしか知る術がなかった。わずかな情報をすり切れるほど読み、この目で選手を見たい!と球場へ通った。
 メリハリの効いたプレー、盛りあがる乱闘にビッグマウス。球場には派手な車が並び、選手たちは遠征先の繁華街で豪遊しては週刊誌を賑わせる。フェンスのすぐ先にいるのにまるで住む世界のちがう、プロ野球選手という特別な人達を、わたしはライトスタンドから眺めていた。


スマホのなかのヒーロー達は

 長いブランクを経てドラゴンズと再会した2017年、応援環境は大きく変化していた。選手名鑑が手元になくても、スマホひとつで情報が手に入る。ファン・球団・OBはもちろん、現役選手までもがSNSで発信し、選手はより身近な存在になっていた。
 2021年春、元スポーツ記者の岡田昌尚を広報として迎えると、球団公式YouTubeは生まれ変わった。本拠地での勝利からわずか3時間ほどで公開される #一緒にどらほー の動画は、盛りだくさんだ。試合前の円陣、勝利後のハイタッチ、ドアラ人形を抱えてのお立ち台、個別のインタビュー。勝った日はこれを心待ちにしながら夜更かしするのが、習慣になった。

 4月20日のヤクルト戦。薄暗いベンチ裏、バースデータイムリーを打った京田陽太は笑顔で言った。
「こども達にドアラを持って帰れるんで、最高っすね。ハイ、帰ります!」

 6月4日のソフトバンク戦。先制本塁打のアリエル・マルティネスは、国境を超えた単身赴任。
「娘が帰ってくるまでに、部屋をドアラでいっぱいにしたい!」
 
 4月30日の広島戦。勝ち越しタイムリーを放った加藤翔平もまた単身赴任で、家族に会えるのは東京遠征のみ。
「東京に(ドアラを)どうやって持って帰ろうかな」
 家族のために働く“お父さん”を歌った、FUNKY MONKEY BABYSの『ヒーロー』。この登場曲が試合終盤に流れ、彼の名がコールされるとつい胸が熱くなってしまう。


職業は違っても、きっと

「野球野球というなかで、あえて離れるためにしてること、一番リラックスできることってなんですか?」
 岡田の問いに、高橋周平はこう答えた。
「嫁にも『考えなくてもいいよ』って言われるんですけど、普通考えるだろって。まぁ、ごはん食べてるときですかね。何も考えずにビール飲みながら・・・みたいな。それが一番いい時間だなと思います」

 ハッとした。仕事がうまくいかないとき、切り替えようとしてもつい考えこんでしまった経験は、きっと誰にでもある。失敗と成功をくり返しながらそっとため息をついて、また明日に向きあう。職業は違えど、その感覚はきっと同じだ。
「普通のサラリーマンのお父さんと同じリラックス方法ですね」という岡田に、彼は言った。
「リラックスというか、その時間がいちばん幸せかなと思います」
 支える家族への感謝をにじませた言葉に、胸が熱くなった。
 怪我とポジションに翻弄されてきた今季の高橋周平。彼のグラブの内側には愛娘の名が刺繍されている。まるで自分を奮い立たせるお守りのように。


その日が来るまで

 プロ野球選手とは過酷な職業だ。どんなに活躍してドラフトにかかっても、プロで活躍できるのはほんのひと握り。良いときも悪いときも常にメディアやSNSに晒されるスーパーアスリート達は、球場の外でも常に何かと闘っている。

 何万人もの観衆から拍手喝采を浴びたあと、ロッカーでユニフォームから着替える瞬間、彼らはひっそりと変身しているに違いない。チームのヒーローから、家族のヒーローに。
 彼らは今日も闘い続ける。チームのために、ファンのために、恩人のために、そして支えてくれる家族のために。

 パパ達、がんばれ!
 いつの日か、こども達が「パパって、めちゃくちゃすごい仕事してるんだ!」と理解する時が来るまで、どうか活躍し続けてほしい。
 わたしは球場でタオルを掲げて、ずっと応援し続けるから。



ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!