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あなたのユニフォーム姿を見たらきっと泣いてしまう


「ようやくスタートラインに立つことができます」
 カメラの前に立つあなたの瞳は強い光を宿していて、わたしは思わずこぶしを握りました。
 待ちわびた瞬間です。胸が熱くなりました。

 あなたが「たくさんのことを勉強し、ひと回りもふた回りも大きくなって帰ってきたいと思います」と話したのは、12年前の引退セレモニーでのことでした。たびたび監督候補として取り上げられ、野球関係者からもファンからも、会う人会う人から「いつかは監督に」と熱望されてきたあなた。周囲からどれだけ求められても、本人の気持ちだけでは監督にはなれません。球団からのオファーがなかった幾年月、どんな思いであなたは待っていたのでしょう。

 

 

 かつて、熱狂の渦の中心に立つ男がいました。闘将、星野仙一。あまたいるプロ野球チームの監督のなかで、わたしがいちばん愛する監督です。彼がはじめて中日ドラゴンズの若き監督となった頃、わたしはまだ中学生でした。

 同じ1987年、あなたもまた熱狂の渦の中心に立っていましたね。テレビの向こう、甲子園で春夏連覇を成し遂げたPL学園野球部の主将として。あなたの最後の夏を、わたしはVHSのビデオテープに録画して毎試合見つめていました。毎日の厳しい部活で、リアルタイムに観戦できなかったからです。

 あなたが夏の日本一を決めた瞬間のインタビューを、今でも覚えています。インタビュアーが質問するたびに、あなたの口から出てきたのは「みんなのおかげ」「自分たちだけのチカラじゃないですから」ということばでした。ベンチ入りできなかった3年生、応援してくれた人たちへの感謝を忘れない日本一の主将に、わたしは憧れました。

 あの年のドラフト会議、星野監督が競合から1位指名を引き当てて、あなたのドラゴンズへの入団が決まりました。
 高卒ルーキーで開幕戦からショートでスタメン。前年のベストナインに選出されたショートのレギュラー宇野選手をセカンドにコンバートさせてまで、あなたをショートで使った星野監督の惚れこみようがわかります。その開幕戦であなたは2塁打を打ち、わたしはテレビの前でガッツポーズをして喜びました。
 開幕スタメンで、内野守備のかなめのショートを任され、ツーベースヒットを放つ。それがビギナーズラックじゃないことを証明するかのように、あなたは1年を通して試合に出続けました。1年目ながら、オールスター出場、新人王獲得、ゴールデングラブ賞受賞。新人の活躍が目立った今シーズンだって、ここまでの華々しい活躍をした高卒野手ルーキーはいません。きっともう二度と、こんなケタ違いの選手には出会えないでしょう。

 そのうちわたしは学生になり、アルバイト代で球場へ応援に行くようになりました。お金はなかったから、外野席。たしか当時、1000円か1500円くらいで入れたような気がします。応援団のおじさん達と仲良くなって、ビールを飲み干したカップの底に穴をあけ、メガホン代わりにして応援歌を歌っていました。豆粒のように小さく見えたって、あなたのどんなに揺さぶられても崩れない打撃フォームはちゃんと目に焼きついています。

 怪我に泣いた年もありました。優勝をかけた試合で1塁にヘッドスライディング、肩を脱臼した年もありました。でも、わたしが野球観戦から離れた1997年からもあなたは主力選手として試合に出続け、いつしか代打専門となってからも、ニュースであなたの名前を見かけるたびに、頑張ってるんだなぁって懐かしくうれしく思ったのを覚えています。

 

 

 時は流れ、わたしは再び日々野球を観るようになり、星野監督は2018年に帰らぬ人となりました。彼は、なかなか監督就任の声がかからないあなたに「今は我慢しとけよ」と、時がくるまで辛抱強く勉強を続けるよう声をかけ続けていたと聞きます。自分の惚れこんだ立浪和義という男の指導者としての姿を、彼はもしかしたらあなた以上に心待ちにしていたかもしれません。情の深いかたでしたから。もしも星野監督が生きていたら、球団の正式なオファーを受けたあなたの姿に涙したことでしょう。

 投手王国を作り上げた与田監督と阿波野ピッチングコーチの力もあってか、ドラゴンズのチーム防御率は現時点で12球団トップ。なのに、チーム打率は11位。あなたに白羽の矢が立ったのは、間違いなく攻撃力復活のためでしょう。

 2021シーズンが終わっていないので、正式な就任発表はまだ先になるとのことですが、監督就任も、あなたの新しいチームづくりも、来季の活躍も、チームの飛躍も、今から心待ちにしています。

 

 そして、もしその背中に、闘将・星野仙一と同じ「77」が刻まれていたとしたら。

 わたしはきっと泣いてしまう。

 

 

 

==お知らせ=====

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==2021.11.11.追記===

 一週間前に、立浪新監督の背番号は「73」だと発表がありました。
 それでも、一軍ヘッド兼投手コーチの落合英二さんが「77」をつけるとのこと。
 ベンチに「77」が復活すると聞いて、やっぱりうれしい。わたしにとって、特別な思いのある番号ですから。

 秋季キャンプか始まってから、広報さんが毎日、YouTubeを更新してくれています。試合がないのに毎日、選手の練習の様子を見せてもらえて幸せ。やっぱりね、ファンって、舞台裏を知りたいものですから。



==2022.2.1.追記===

 立浪監督のユニフォームに袖を通す瞬間、この逆光のショットに文字通り涙がこみ上げました。御本人は「似合わんでしょう?」とおっしゃいましたが、そんなわけがありません。待望の立浪新監督の船出、応援しています。


ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!