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連載 洋楽今昔② Born in the USA と Born This Way

1984年に世界を席巻したブルース・スプリングスティーンの Born in the USAと、2011年に強烈なインパクトで世界的な大ヒットとなったレディー・ガガの Born This Way。今回はこの2曲を比較してみたいと思います。

     Born in the USA
Born down in a dead man's town
The first kick I took was when I hit the ground
You end up like a dog that's been beat too much
Till you spend half of your life just covering up

Got in a little hometown jam so they put a rifle in my hand
Sent me off to a foreign land to go and kill the yellow man

Come back home to the refinery
Hiring man said " son if it was up to me"
Went down to see my V.A.man
He said "son don't you understand now"

Born in the USA, I was Born in the USA
I was born in the USA, I was born in the USA

Down in the shadow of the penitentiary
Out by the gas fires of the refinery
I'm ten years burning down the road
Nowhere to run ain't go nowhere to go

 生気のない町に生まれ
 歩き出すとすぐに蹴飛ばされた
 打ちひしがれた犬のように一生を終えるんだ
 身を守ることに半生を費やしながら

 地元のごたごたに巻き込まれると
 手にライフルを握らされて
 異国の地へと送られた
 黄色人種を殺して来いと

 故郷に帰って製油所へ行くと採用係が言った
 「悪いな、俺の一存ではどうにもならない」
 退役軍人局へ行くと担当者が言った
 「若いの、まだわからないのか?」

 アメリカで生まれた 俺はアメリカで生まれた
 アメリカで生まれた 俺はアメリカで生まれた

 刑務所の近く 製油所のガスの炎が燃え盛るすぐそばで
 この10年 煮えくり返る思いで生きてきた
 どこにも逃げられない どこにも行けやしないんだ

    Born This Way
My mama told me when I was young
We are all born superstars
She rolled my hair and put my lipstick on
In the glass of her boudoir

"There's nothing wrong with loving who you are"
She said,"cause he made you parfect, baby"
"So hold you head up girl and you'll go far,
Listen to me when I say"

I'm beautiful in my way 'cause God makes no mistakes
I'm on the right truck, baby, I was born this way
Don't hide yourself in regret, just love yourself and you're set
I'm on the right truck, baby, I was born this way

Don't be a drag, just be a queen
Whether you're broke or evergreen
You're black, white, beige, chola descent
You're Lebanese, You're Orient
Whether life's disabilities
Left you outcast, bullied or teased
Rejoice and love yourself today
'Cause baby you're born this way

No matter gay, straight, or bi, lesbian, transgendered life
I'm on the right truck, baby, I was born to survive
No matter black, white or beige, chola or orient made
I'm on the right truck, baby, I was born to be brave

Oh there ain't no other way
Baby I was born this way
Right truck baby I was born this way

 幼い頃、ママが言った
 私たちは皆 生まれつきスーパースターなの
 私の髪を巻いて口紅を塗ってくれた
 寝室の鏡の中で

 そのままの自分を愛すればいいのよ
 だって神様があなたを完璧にしてくれたんだから
 だから顔を上げて 前に進みなさい
 私の言葉に耳を傾けて

 私はこのままで美しい だって神様は間違わないもの
 正しい道を進んでいるわ 私はこんなふうに生まれてきたの
 後悔に尻込みしないで 自分自身を愛すればいい
 正しい道を進んでいるわ 私はこんなふうに生まれてきたの

 つまらない妥協はやめて 誇り高く生きよう
 一文無しでも 大金持ちでも
 黒人でも 白人でも 黄色人種でも ヒスパニックでも
 レバノン人でも 東洋人でも
 障害があっても 仲間外れにされても
 苛められても からかわれても
 今の自分を喜んで愛してあげればいい
 だってあなたはそんなふうに生まれてきたんだから

 ゲイでも ストレートでも バイセクシュアルでも
 レズビアンでも トランスジェンダーでも 何でもいい
 正しい道を進んでいるわ こんなふうに生まれてきたの
 黒人でも 白人でも 黄色人種でも
 ヒスパニックでも 東洋人でも 関係ない
 正しい道を進んでいるわ こんなふうに生まれてきたの

 他に道はない こんなふうに生まれてきたの
 正しい道を進んでいるわ 私はこんなふうに生まれてきたの

どちらも強いメッセージ性を感じさせる歌ですが、その方向性は微妙に異なります。Born in the USA がベトナム戦争の帰還兵の物語をモチーフとして、巨大な米国社会の抑圧の中でもがく個の叫びを叩きつけるのに対し、Born This Way は多様化する社会を背景として、抑圧をはねのける個の存在を高らかに歌い上げています。そこには前者に見られるような屈折は希薄ですが、なぜか前者よりもヒリヒリするような切迫感があるような印象を受けます。良くも悪くも前者には米国への強い帰属意識があったわけですが、後者ではそれが失われ、個の痛みが剥き出しになっているような感じがするのです。

両者の印象の違いには歌い手のスプリングスティーンとガガのキャラクターの違いが少なからず影響しているのはもちろんですが、時代の変化もそこに色濃く反映されているのではないかと思います。グローバリゼーションの最先端、多様化と画一化の双方が加速度的に進む米国社会では、国家の存在が自明のものではなくなりつつあるのかもしれません。だからこそ、そうした流れに対する拒絶反応として、ヒステリックな米国第一主義や白人至上主義の思想が、少なからず勢力を持つことになるのではないでしょうか。それは米国の背中を追いかけているように見える日本社会にとっても、対岸の火事ではありません。

Born This Way が広く支持を得る21世紀の世界は、まともな道(Right Truck)を歩んでいる世界だと思います。国家や民族への帰属意識を強く求める反動はあったとしても、時代の主流は多様性と個の尊重にあり、これからの方向性もそうあるべきだと思うからです。難しい問題は多々ありますが、全体としては世界は良い方向へ変わっていっているのだと信じるのは、楽天的に過ぎるでしょうか?


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