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臨月

どこかで雨が誰かの肩を濡らして  どこかで夜が澱んだ空を飲み込む
月明かりを頼りに船は海へ出てゆく  君の鼓動が大きくなる

美しくあれとか 気高くあれとか
賢くあれとか 強くあれとか
すべての望みを捨て去るときに  僕らは少しだけ君に近づく

月は満ち 月は欠け 潮は満ち 潮は引き  僕らは待つ 君を待つ
月は満ち 月は欠け 潮は満ち 潮は引き  僕らは呼ぶ 君を呼ぶ 臨月

どこかで風が誰かの頬を叩いて  どこかで夜明けが歪んだ街を飲み込む
月明かりを残して船は海に抱かれる  君の呼吸が深くなる

たくましくあれとか 豊かであれとか 女であれとか 男であれとか
すべての望みを諦めたときに  僕らは少しだけ自由になる

月は満ち 月は欠け 潮は満ち 潮は引き  僕らは待つ 君を待つ
月は満ち 月は欠け 潮は満ち 潮は引き  僕らは呼ぶ 君を呼ぶ 臨月

すべての望みを捨て去るときに 僕らは少しだけ君に近づく

月は満ち 月は欠け 潮は満ち 潮は引き  僕らは待つ 君を待つ
月は満ち 月は欠け 潮は満ち 潮は引き  僕らは呼ぶ 君を呼ぶ 臨月

*子供が生まれる直前、すなわち文字通り「臨月」に作った歌です。
我が子に対して親は過剰な期待をしてしまいがちなもの。しかし、生まれる直前には、どうか無事であってほしいと、それだけを願っているのではないでしょうか。
月の満ち欠けや潮の干満と同様、人の生命も大きな自然のうねりと共に脈動するものだと思います。新たな命の誕生をひたすら待つ時間は、胎児の存在を通じて、そうした大きな宇宙の胎動を実感し得る貴重なひとときなのかもしれません。


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