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「過料」とは何か

報道などでしばしばみかける「過料」という言葉。
身近なところでは、引越しをしたのに住民票をきちんと移さなかったり、会社がなすべき登記をきちんと行わなかったりしたときに、科されることがあります。タバコのポイ捨てに対して、過料の制裁を用意している自治体もあります。
「過料」=金銭ペナルティであるということは何となく分かっても、分かるようで分からない制度なので、簡単に整理してみました。

「過料」の意義

「過料」とは、「行政上の秩序の維持のために違反者に制裁として金銭的負担を課すもの」(=「行政上の秩序罰」)の一つと説明されます(宇賀克也『行政法概説Ⅰ(第7版)』273頁参照)。

簡単にいえば、「法律、条例等で「過料」との名称にて定められる金銭ペナルティ」となります。

「過料」は、刑事罰ではないため、「過料」を科せられたとしても、前科にはなりません。あくまで金銭ペナルティに留まります。

「過料」の二つの体系

「過料」は、大きくは二つの体系に分類されます。両者は別ものと考えていただいた方が理解しやすいです。

①「法律」が定める過料

一つ目は、「法律」に違反したことを理由として科される「過料」です(当該「法律」に、「過料」の制裁についての規定がある場合の話です。)。

「過料」を規定する「法律」は、約600あります。
「100万円以下」(会社法976条ないし978条)、「50万円以下」(空家等対策の推進に関する特別措置法16条1項)、「30万円以下」(新型インフルエンザ等対策特別措置法79条)など、金額が少ないとは限りません。
曲者なのは、裁判所は、「違反の個数」に応じて過料を科すことができるとされていることです。そのため、時に大きな金額になることもあります。

裁判所が1年間に科す過料の件数は、年間8万件~10万件くらいです(令和3年度の新受件数は8万7087件。司法統計年報(民事・行政編)第1-2-3、1-2-4表)。意外に多いですよね。

この「過料」は、非訟事件手続法が定める手続きに従って、裁判所が科します。具体的には、行政機関等が裁判所に対して「過料を科してください。」と通知し、裁判所が「決定」形式で科します。当事者の言い分を聞かないでまずは過料を科すという、「略式手続」も用意されています。
裁判所がなした過料決定に基づいて過料を納めた場合、支払われた金員は国庫に帰属します。都道府県が裁判所に過料を科すよう通知をして、それを受けて過料決定がなされたとしても、支払われた金員は国のポケットに入るということです。

②「条例又は規則」が定める過料

二つ目は、「条例」又は「地方公共団体の長が定めた規則」に違反したことを理由として科される過料です(こちらも、当該「条例」又は「規則」に、「過料」の制裁についての規定がある場合の話です。)。
この「過料」は、地方公共団体の長が、「過料処分」という形式で科します。当該「過料処分」について不服がある者は、審査請求をしたり、取消しの訴えを提起したりして、争うことができます。
「過料処分」に従って支払われた金員については、当該地方公共団体の歳入となります。

(さらなる区分)
地方公共団体の長が過料処分として科す過料には、次の3つの区分があります。それぞれ制度の沿革が異なります。このあたりも制度を分かりづらくしている一因です。
①地方自治法14条3項に基づき条例において定める過料(上限額は5万円)
②地方自治法15条2項に基づき地方公共団体の長が定める規則において規定する過料(上限額は5万円)
③地方自治法228条2項3項に基づき条例において定める過料(2項については上限額は5万円、3項については上限額は徴収を免れた金額の5倍に相当する金額)

「条例又は規則」が定める過料の3区分

さいごに

報道などにおいて、「過料」を刑事罰(特に刑事罰としての「科料」)と混同しているものや、「法律」が定める過料と「条例又は規則」が定める過料の違いを正しく認識できていないようであるものを、しばしば見かけます。
制度それ自体が分かりづらいので仕方がないとは思いつつ、正確な理解の一助になれば幸いです。

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