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青のうた

かれのなかには、青く青いおもいがあった。
そのおもいは、ティンクトゥーラの青色で、ピグメントの色にはあらわすことができず、言葉にもならなくて、うたになった。

うたを聴かせるひともいなくて、かれは、青空へ向け、歌った。
空には風が吹いていて、風がうたを運んだ。

空も風も、うたを抱きながら、うたに懐かれるような心地よさを覚えた。
青のうたは、おのれのなかに、すうっと、しみとおるように感じたのだ。

うたは、ある秋の日、つゆくさの花にふれた。
ふいに、花は、「このうたはわたしのうた、わたしのうたにする」と思った。
直観だった。覚悟だった。

ことほぎか、なぐさめか、そのどちらでもなく、どちらでもある。
どこか遠くて寂しくて、切なくてかなしくて。
そういう青く青いおもいは、誰の心の深みにもある。

つゆくさは、青のうたを、繰り返し、何度でも歌った。
そのうたもまた、風にのり、あまねく吹きわたった。

ある日、かれは歩く道すがら、つゆくさの花と、眼が合った。
ふいに、かれは、その花にしかない青色をたたえたつゆくさに、心をうたれ、うばわれた。

かれは絵描きである。
「心を託し、心をおとしこめる色、ぼくが求めていたのはこの色だ。この花はぼくの花、ぼくの花にする」と、かれは思った。

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