見出し画像

水の恋

水は恋しておりました。
いつくしく、いとおしい、稀なるたった一つの星に。

水はその一つの星を、みずからのうちに映し、また宿しては、あなたはなんと美しいかと、ことほぐことが喜びでした。
そのさなかには、おのれさえ、美しく思える一瞬がありました。
そういうときはきまって、面映ゆく思えたあとに、恥じいることが常でした。

それゆえ水は透明なのに、もっと清みたい澄みわたりたいと、ひたむきに、まっすぐに、願い祈っておりました。

水はとりまくときはやさしく、融け合うときにそそがれ、その透明をにごらせます。
なにかのまじるときにはにごるのです。
なにかと結ばれるとき、ゆるして包みこむからです。
水はそれよりほかに知らないのです。

しかして水は透明です。
透明なのに、もっともっと透明になりたいのです。
いつくしいあの星を、美しく映すため。
いとおしいあの星へ、遠くとうといあの星へ、青く登ってゆくために。
それは恋です。恋でした。

星は瞬き、揺らぎほほえみ、脈打っておりました。
水は星からたくさん真似び、真剣に深くまなんでおりました。
いつもいつでもまなざして、星をめざしておりました。

「もっとわたしはわたしになって、はるかかなたのあなたになりたい」。

願わない日はありません。
祈らない日もありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?