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祈りの残滓

灰は、音もなく生まれ、降りつもり、黙したままに、生きていました。

音のない真空が、灰のなかにはありました。
そこには、重力がありません。
天地左右もありません。
過去も未来もありません。
あるいは、そのすべてがありました。

静止したままの流星が光度を上げて迫り、最大輝度で輝くときも、灰はしずかに受けとめました。
こともなく、星ひとつぶんの、音も光も吸いこみました。

灰にとって、焔は、近くて遠い友だちでした。
灰があまりに寡黙なために、話したことはなかったけれど。

灰と焔は、ひとつひとつですけれど、永遠のありようをして、ひとつなのです。

灰も焔も、失われるのに失われないものを託すための、ありかたをしています。
ゆえに祈りは、焔に焚かれ灰になるのでしょう。

祈りの残滓、灰のなかには、ゆたかに冥れるものが生まれます。
それが灰の、すべてを聴す沈黙なのです。

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