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連なり星とほうき星

双子の連なり星は歌います。
星とは歌うものなのです。

「眼と眼が合えば光またたく」
「ぼくらは眼と眼まばたきし合う」

「手と手つなげば熱が生まれる」
「なのにぼくらは手をつなげない」

「ぼくら連なり星だけど」
「ぼくらつながれないのかな」

連なり星は、さみしいような、かなしいような、せつない歌を歌います。
けれども、本人たちは、案外、さみしくも、かなしくもないのです。
たがいに、たがいの周りを回っていて、いつでも一緒でしたし、いつかは一つだったし、いつかも一つなのだと、分かっていましたから。



連なり星は、きょうも、声を合わせて、歌います。

「ぼくらはひとつひとつでも」
「いつもいつでもふたりでひとつ」

そうして歌っていましたら、遠くから、ふたりのほうへ、かけ寄ってくる星がありました。
長く永いほうき星でした。

双子の連なり星は、ほうき星を見つけると、そろって、「わぁ」という、感嘆の声をあげました。
ほうき星に逢えるのは、たいへんめずらしいことですし、なにせ、ほうき星は、胸がすくくらい、きらきらしかったのです。

ほうき星は、無数の星を引き連れながら、そして、無数の星を散らしながら、それでいて、無数の星のすべてで一つの星でありながら、宇宙の闇をかけていました。

「ぼくらのぼくは、どこへゆく」
「どこへゆくのか、ゆけるのか」
「どこともしれぬ、どこかへと」
「いずくともない、いずこにも」

ほうき星は、形がほうきのようだから、「ほうき星」と呼ばれます。
ほうきのように、星を掃き集めるということはなく、むしろ、星を燦々と降り散らすのが、ほうき星です。

しかし、星を散らかすようですが、なぜか、ほうき星の通りぬけたあとの虚空は、どこか、かなしくなるほど清々として、決して明るくはないはずなのに、しんとした明るさに満たされます。

じつは、ほうき星は、星屑ではなく、宇宙の闇を掃ききよめているのです。
きよめられた闇は、闇なのに、闇のまま、不可思議に輝きます。
そして、ほうき星は、集めた闇色の塵芥を燃やして、尽きながらも尽きることなく、燃えながら進んでゆくのです。

双子の連なり星は言いました。
「ほうき星さん、こんばんは」
「ほうき星さん、こんばんは」

ほうき星もこたえます。
「連なり星の双子さん。お目にかかれて、とても嬉しい。
けれども、もうさよならです」

「はじめましてで、ごきげんよう」
「ようやくに、せっかく会えた友だちに、もう二度と会えないとはね」

その歌声も、急に近づいて大きく聞こえたかと思うと、瞬時に遠のいて小さくなっていきました。
ほうき星は、連なり星のすぐ脇を、ものすごい勢いで、通りすぎてゆきました。

連なり星はさみしがり、ほうき星もしゅんとしました。
連なり星とほうき星は、たがいが見えなくなるまで、たがいをずっと見つめていました。

ほうき星の尾の先の星のかけらも見えなくなって、ほうき星の歌声ももはや届かなくなったとき、ふたりの連なり星は、ふいにふと呟きました。
小さな小さな歌声でした。

「ああ、きみは、なんて、まれなる星なのか」
「ああ、きみは、なんて、せつなる星なのか」

「まれなる星、せつなる星」とは、ほうき星のことでもありながら、自分の片われの星のことでもありました。

ほうき星は、連なり星に、せつなを教えて去りました。

ほうき星は、いまも、果てなき宇宙の闇を動力に、宇宙の闇を、かけ抜けていることでしょう。
連なり星は、たがいの重力で引き合いながら、ついぞふれえることはなく、たがいの周りを回っています。

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