ICT弁護士奮闘記2 委員会をZOOMでやってみた

弁護士会には、委員会と呼ばれる仕組みがある。特定の法的なテーマについて、弁護士が集まって議論をしたり、イベントを企画したり、その他色々な活動をしている。筆者は子どもの権利委員会と精神保健委員会などに入っていて、前者は少年事件や児童虐待、学校でのいじめ問題などに取り組み、後者は精神科病院に入院中の患者さんの支援を行っている。
ところで、弁護士の就職難などがマスコミで騒がれた頃と前後して、全国的に若手弁護士の「委員会離れ」が進んでいると言われている。理由は簡単で、委員会活動をしても金にならないからである。例外的に、倒産委員会や交通事故委員会など、案件獲得につながる(=金になる)委員会は、どこの弁護士会も人が集まるという。
しかし、委員会に足が遠のくのはそればかりでない。弁護士の人数が増え、価値観がある意味で多様化、ある意味で同質化したことも大きい。昔は、人権擁護活動をするのがある種当たり前で、そうした志を持った人が弁護士になることがほとんどだったが、今の若い人は、「ちょっと給料のいいサラリーマン」くらいの感覚で弁護士をやっている人もしばしば見かける。私はと言うと、単純に「上司のいうことを聞きたくない」という理由でこの仕事をしているから、どっちもどっちかもしれないが。
だが、より現実的な問題として、委員会に行くのが物理的に面倒だという点はさらに大きい。というのも、委員会に所属した場合、通常、月に1回程度、弁護士会で開かれる委員会に出席する必要がある(強制ではないが)のである。単純計算して、4つの委員会に所属していると、週に1回は何らかの委員会が開かれていると言うことになる。なんだか高校の部活動並みである。
しかも、これまで、委員会は各自の仕事が終わる夕方から開催(からの飲み会)が多かったのが、時短勤務をしている弁護士や、家に帰って子どもの面倒をみなければならい弁護士などへの配慮もあって、比較的早い時間帯に開催することも増えている。そうなると、今度は、若手の弁護士が参加しにくくなってしまうという問題が発生している。筆者のように、委員会を口実に勤め先の事務所を早々にバックレていた不良弁護士であればともかく、今の若い人は真面目だから、午後3時とか4時に、金にもならない委員会に行ってきます、といって事務所を抜け出して弁護士会に赴くというのは、なかなかやりにくいわけである。
しかし、これは、そもそも委員会の際に、弁護士会に実際に赴くことを当然の前提とする議論である。そんなことをしなくても、テレビ電話などで参加すれば、家からでも参加できるし、わざわざ事務所をバックレ・・・いや抜け出すこともなく参加できるのだから、参加のハードルはぐっと下がるはずである。そんなことは、深く考えなくても当然思いつく発想である。
しかし、今般のCOVID-19流行まで、筆者が熱心にテレビ電話での委員会開催に水を向けようとしても、ほとんど見向きもされなかった。その背景に、「大事な会議はやっぱり顔を突き合わせて」という理解不能の土俗信仰があることは、わざわざ指摘するまでもない。これまでにも一応、弁護士会にはテレビ会議システムがあったが、テレビ会議をするために弁護士会館に行かなければいけないという、なんとも中途半端なものであった。
しかし、このたびの緊急事態宣言を受け、それぞれの委員会は、慌ててテレビ電話による委員会開催に舵を切っている。それみたことか、いわんこっちゃない、はじめからやってりゃよかったのに、と言うのが筆者の偽らざる心境である。
しかし、テレビ電話をするにあたっても、ZOOMが使えない弁護士のために別途電話回線のテレビ電話をつなぐとか、誰かが弁護士会館に詰める必要があるとかないとか、わけのわからない議論がくすぶっているのが現状である。やはり、土俗信仰は簡単には滅びないようだ。しかも、せっかくZOOMをで開催しても、「やっぱりテレビ電話だと議論しにくいから、COVID-19の流行が終わって直接会ってから話しましょう」などと、テレビ電話を骨抜きにするような土俗信仰の信者まで出現する始末であり、なんとも手に負えない。
ZOOM会議のよいところは、発言者がスピーカービューで表示されてみんなが注目するため、発言の機会が平等に与えられやすく、他の人の話をまずはきいてみようという姿勢になりやすいこと、資料を共有しながら話ができるため、事前に議題を印刷するなどの環境破壊行為を防止できることなど、挙げていけばきりがない。
これまでに、筆者は複数の委員会で、ZOOM会議を提唱し、機材を提供して実施してみたが、実際に会館に集まって議論するより有意義なんじゃないかと思える場面が多数あった。COVID-19が終わっても、委員会は基本ZOOMでよいと思うし、どうしても使えないと言うことであれば個別相談でよいと思っている。設定自体はそんなに難しくないので、苦手意識を捨てれば、十分なんとかなるレベルである。
実際に、ZOOM会議をするにあたっては、PCとWEBカメラがあれば十分であるし、最悪、スマートフォンがあれば参加は可能である。特段の設備投資は必要ない。弁護士会まで足を運ぶ交通費や機会損失を考えれば、数千円のWEBカメラなど一瞬でおつりが来るであろう。
ただ、ひとつだけ心残りなのは、委員会活動が完全ZOOM化されてしまうと、日弁連の用事で東京に行く機会が減ってしまうことがある。その時だけは土俗信仰にかこつけて東京に行こうかという悪魔のささやきと、日々戦う今日この頃である(とはいえ当面の間、東京での会議は延期になっている)。

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