消印〔掌篇小説〕

 消印を拾った。消印が押された手紙を拾ったのではない。手紙に押されたであろう「消印」だけを、拾った。
 私の掌に乗せられたこの消印は、届けるという任務をなくしてしまった。持ち主である手紙にしても、消印を失ってしまっては届けてもらうことができない。このままでは永遠に読まれることなく朽ち果ててしまうだろう。
 私は拾った消印を交番に届けに行った。可能性は低いが、誰かがこの消印の持ち主である手紙を見つけて交番に届けてくれるかもしれない。そうすれば手紙は消印を取り戻してようやく行くべきところへ届けられ、読んでもらえることだろう。そして読み終わった後もその家に大切に置いてもらえるのだ。
交番を出て歩き出すと、手紙を持った人物とすれ違った。思わず振り返ると、その人物は交番の中へと入っていった。

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