木から落ちる葉と麻雀の話

人間は木の葉の落ちる場所が予測できるか

以前読んだある小説で、人間より超高性能な知能を持った生き物が描かれていました。

最近のIT界隈の話題に合わせればシンギュラリティ後のAIのような超知性をもった生き物です。

作中では名前がついていましたが、この記事では分かりやすくするために以降この超知性生命体をXと呼びます。

作中にXが木から落ちる瞬間の葉を見て即座に葉の落下地点を指差す、という描写がありました。

人間にはもちろん落ちた葉の落下地点をピンポイントで割り出すことはできません。簡単な未来予知に近いレベルで超精密な計算ができるという超知性のすごさを見せる描写です。

さて木から落ちた葉の落下地点を予測するためには、まず計算の元になるパラメータを洗い出す必要があります。

風の向きや強さ、木の高さ、葉の形状など様々なパラメータが考えられます。まずこれらパラメータがどれだけあるのかもよくわからないし、仮に全てのパラメータが分かっていても人間には計算時間が到底足りません。

また、厳密には葉が地面に落ち切るまでに風の強さや向きは変動しうるので、その予測も必要になります。

ここで少し条件を変えて落下予測をピンポイントではなく、落下エリアさえ分かれば良いということにしてみましょう。

木とその周辺を上から見た図をビンゴカードのように25エリアに分割します。そして葉の落下地点予測をピンポイントではなくこのエリアのどこに落ちるか?と考えてみましょう。なお必ずどこかのエリアには落ちるものとします。

これなら恐らく人間でもそこそこの精度で正解できると思います。風が南西向きに吹いているのであれば左下の4マス(a4,b4,a5,b5)のどこかに落ちるはずです。

さらに木の高さが一定以上であれば外側の方(a5)に落ちるだろうし、風速が強ければそれもまた外側の方(a5)に落ちるだろうと予測がつきます。

風が南南西であれば下寄り(b5)、西南西であれば左寄りあたり(a4)に落ちるだろうと推測できます。風が弱ければそこまで飛ばずに落ちます(b4)。

これらは計算というよりもロジックです。

仮に毎日毎日葉が落ちるエリアを予測している葉職人がいたとすれば、木の高さや風の強さと落下の関係もある程度経験則で分かっていくでしょう。

そしてそれをいずれ「風速3.0m/sで木の高さが3m以上なら外側の方に落ちる」とか一定のセオリー導き出せるかもしれません。あるいは葉の形は落下への影響度は小さく、落下エリアの大部分は木の高さと風の強さで決まる、ということがわかるかもしれません。

麻雀では?

やっと麻雀の話。

麻雀はある場面で取れる選択肢が有限なので、例えばその選択の良さが数値で表せたとして(例:局収支,半荘期待順位など)も、その数値自体を計算で弾きだせなくてもプレイヤーの判断を下すためには問題ないことが多いです。

例えば何切るの選択肢x,y,zがあったとしてそれらの計算結果がいくつなのかがわからなくても数値の良さがx>y>zだろうということさえ分かればxを選択できます。

麻雀研究者が明確に数値を出したもの以外はこのロジックに従っているはずで、この見積もりの精度の違いがプレイヤーの力量の違いとして表れるともいえます。

上級者でも意見が分かれるということはxとyの見積もりと比較が難しいということです。例えばある場面で鳴くのをx,スルーをyとして、上級者でもxの方がいいかyの方がいいか、意見が分かれるのは日常茶飯事です。

逆に明らかにセオリーとして確立している戦術はx>>>yと認識されていたり、研究者の数値的な検証の上でもx>yだと検証されたものに近いはずです。例えばピンフドラ1をリーチするをx,ダマにするをyとする場合です。

プレイヤーの見積もりの精度の上がり方は、葉職人が毎日葉の落下予測をすることで、ピンポイントでの落下地点はわからなくても落下エリアは推測できるようになるということに似ています。

例えば先述した葉の落下地点の予測において、高い木で風が南西に強く吹いている場合にe1,c4,a5のうちどこに葉が落ちるか?という三択ならa5が妥当な選択でしょう。

c4も完全に間違いではないのかもしれませんが、e1は明らかに判断ミスだと言えると思います。さらに経験を積み判断の精度が上がった葉職人ならやはりc4は選択ミスでa5こそが明確な答えだと自信を持てるかもしれません。

選択の根拠となる数値(=葉のピンポイント落下地点)が分からなくても、いくつかの選択肢(落下エリア)が提示されさらにその差が大きいのならどのエリアの方に落ちるかは見積もりが容易です。

ではピンポイントで予測(麻雀では実際の数値を求める)することに意味がないのかというとそうではありません。

選択肢の差が大きいならどのエリアが落ちやすいのか見積もりが簡単ですが、逆に言うと選択肢の差が小さいのならどのエリアに落ちるのかを判断するのが難しくなります。

南南西に強い風が吹いている状況でa5かb5のどちらかに落ちるという二択は熟練の葉職人でも判断が難しいかもしれません。

木の高さ、葉の形状などを考慮してもいくら考えてもa5とb5の間に落ちそうで、どちらかを断言するのは非常に難しいという状況です。

こういう場合ではやはりXの力が必要になってきます。

ピンポイントで場所が分かれば葉職人にはa5とb5の間に見えても本当はギリギリa5エリアの範囲だったということが分かります。

微差の問題であればあるほど葉職人では解けず、Xの力が必要になっていきます。勿論麻雀では微差であればあるほど成績には寄与しにくい、ということも併せて記しておきます。

麻雀研究

延々とピンポイントで予測(判断基準にすべき数値の算出)できればいいよね、という話をしてきましたが、Xはフィクションの世界の登場人物です。そんな超知性を持った生き物は現実には存在しません。

今流行りのAIにしても実際に麻雀のAIやシミュレーションの作成は膨大な知識・労力が必要なはずです。実際に取り組んでいる方はごく少数で、研究者が増えないとも言われています。

特に麻雀は計算処理をするにしても場面や条件が非常に複雑になるはずですし、例えばパラメータを入力したら高速計算して結果が出力されるとしても、じゃあ入力すべきパラメータはどこまで存在するのか、とかそういった問題(ハイパーパラメータ)が生まれるのではないかと思います。

しかしそれでも戦術がより進化して広まるにはこういったアプローチが必要になってくると思っています。

最近Qiita(プログラミングの知見の投稿サイト)ではpythonというプログラミング言語についての投稿が増え、それまで1位だったjavascriptを超えてトップになりました。

pythonはデータの扱いを得意とする、簡単に言えばAIやデータ解析に向いている言語です。pythonの流行の理由には勿論社会全体のデータ解析やAIへの期待があるのでしょう。この流れに沿ってぜひ麻雀の研究も盛んになってほしいと思います。

よく麻雀における数理的なアプローチについて、「実際は場況があるから参考にならない」とか「母集団が違うからあてにならない」とか色々な理由から否定的になる人がいます。

しかしその理由があってもやはり数理的なアプローチは大きな知見になります。

母集団が違うとかサンプル数がとかそういった点を踏まえても参考になりますし、少なくともそういった方向からのアプローチを育てて育てて行った先に新たなセオリーや強烈なAI、学習コンテンツなどの登場が見込めるのだと思っています。

そしてそれは人間にはできないことも含まれていて、そこからしか到達できない、とても価値があるものなのだろうと思っています。









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