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小説とか詩とか

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瑞野が書いた小説や詩をまとめています。短編多め。お暇な時にぜひどうぞ。
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2021年7月の記事一覧

#2000字のドラマ_小説『君と出逢った奇跡』

私はどうしても突き止めたかった。放送部が毎日流すお昼の校内放送。そこにいつも私が大好きなスピッツをリクエストしてくれる子の正体を。しかし、その正体が誰なのかを特定するのはとても難しい。私の学校は中高一貫校。とてもたくさんの生徒がいる。校内放送で毎日流れる音楽。そのリクエストを書き込むカードには、本名を書くところがない。ペンネームとタイトル・アーティスト名だけでリクエストできるのだ。 「・・・それで、リクエストボックスの前で張り込みを?」 「そう、徹底的に張り込んで見つける

#2000字のドラマ_小説『スターティング・オーヴァー』

「選択肢を増やしたくて一応就活もしていて、内々定はもらったんですけど、やっぱり女優への道をどうしても諦められなくて。夏休みいっぱいは色々と考えてみようかと思っています」 そんな私の現状報告に、教授はこう即答した。 「就職しなさい。親御さんにも負担はかけられないだろうし、何より安定した仕事につくことが一番大事だろう?それがいい」 教授が軽く発した言葉に、失望した。 「はは。ま、そーですよねぇ〜。」 私は意見に同意するようなニュアンスの返事をして、軽く受け流そうとした。

小説『火花色の約束』

また、夏が来た。 六甲山の山々が、目にも鮮やかな若草色に染まる。その姿は、街からのどこからでも見ることが出来る。坂と山と港の街、神戸。 俺は、三宮の地下街の柱にもたれかかりながら、暇を持て余していた。今日はちょうど、神戸で一番大きな花火大会が開催される日である。待ち合わせ場所として有名なこの地下の広場にも、たくさんの男女が待ち合わせしている。 高校生最後の花火。俺は勝負をかけていた。 終業式の日、勇気を出して、片思いしている女子に声をかけて、一緒に花火を見に行きませんか

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小説『大路家の会談』

父さんがウェンズデイされた。 週刊誌にスキャンダルをすっぱ抜かれたのだ。 週刊誌・ウェンズデイの巻頭を飾った「大路大五郎のマスクに隠れた大胆性癖・真夜中のSMクラブ通いを激写!」という黒見出しを見たときはもはや怒りとか呆れとかそういうレベルを通り越して腹の底から大爆笑してしまった。「笑ってる場合ですか」とマネージャーに呆れられたが、仕方あるまい。もはやこれはコメディにするしかないな、と直感で想うぐらいに俳優にとっては最高の美味しいネタだなと感じた一方で、これは調理する側の

¥300

小説 『朱に交われば赤くなる』

コロナウイルスの蔓延から10年が経った。 ある時、アメリカの片田舎で人間が突然ゾンビに変異するという大事件が発生した。その原因を解析したところ、コロナウイルスのワクチンが何かのきっかけで遺伝子的変異を起こし、それが体に作用してなんやかんやでゾンビ化してしまうことが判明した。 人類は、マスコミの主導のもと、このゾンビを「ワクチンゾンビ」と呼んだ。そして、ゾンビとの果てしない人類防衛戦が始まった。 ゾンビの蔓延は最初こそゆっくりしたものであったが、そのうち大都市圏を中心に加