ダンスの奥義
踊り、舞で重要なのは、「止まる」ことだ。
実家にいた頃、地元の大きな神社で新春薪能があった。無料で自由に観覧できるらしい。私はがらんと空いた客席のすみに座ってみた。
そうしたものに興味を持ったことなど正直無かった。ダンスは趣味でテキトーにやっていた(まったく個人的に、動画を観てまねしていただけ。そもそもは仕事で故障した脚を治せるかな、という軽い理由。BIGBANGにハマったのでその手の、HIPHOP的なものや、出鱈目な動きを勝手に一人でやっていた)。
だから、ふと、「本当にダンスをやっている人間」はどう動くのかを見てみたいと思ったのだ。
意外だった。
能は、ミツユビナマケモノくらい動かない。
いきなりバッと動くのもなし、ビシッと決めポーズみたいな見栄を切るのも当然ない。
なのになんだろう。
流れ?
流れが見える。
絶え間ない。
川の流れや、静かに燃えるろうそくの火に魅入られたことはないだろうか。
一見、静止しているように見える。
しかし、それは流れている。生き生きと動いている。
舞い手の動きに注目していると、いかに体の軸、芯を保って「止め」ているかが目についた。
だから、ふと回転したり両腕をひらいたりするのが、とても美しくはなやかに映ずる。物語を語り、楽の音になり、その身をうれしんでいる。
それが引き立つのだ。
きちんと止まることが出来ないと、ダンスは片手落ちになるのだ、と感じた。
目を奪われるような若手のアーティストのダンスも、その後注意を払って見ると、いかにきちんと「止まる」「軸を保つ」のを訓練しているかが分かる。
流れ続けるものは、止まることも自ずと知っていないと表現はできない。
闇雲に動き回れば単に落ち着きなく暴れているようにしか見えず、すぐに息は上がってしまう。
私も軸や芯、止めに気をつけてダンスごっこをしたり、日常過ごすようになった。
それはとりもなおさず、体の故障を治してもくれたし、心の在り様にも関係してくるのだな、といまは思う。
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