見出し画像

『LOST JUDGEMENT』復讐は何を生み出したのか

年末から作業の合間を縫ってプレイしていた『LOST JUDGEMENT 裁かれざる記憶』が終わりました。
そうです。「キムタクが如く」という俗称で親しまれ、「あの国民的アイドルである木村拓哉を町中で大暴れさせたり出来る唯一無二のゲーム」として君臨するあの『JUDGE EYES』の続編である『LOST JUDGEMENT』です。
今作では木村拓哉、もとい八神隆之はお馴染みの神室町と『龍が如く7』の舞台となった「伊勢佐木異人町」、その異人町にある学校「私立誠稜高等学校」を舞台に、様々な思惑により隠されてしまった真実を解き明かすべく仲間達と探偵として活動していくことになります。
新たに攻撃を捌く事に特化したスタイルの追加や、相手の必殺技「モータルアクション」とそれを返す「モータルリバーサル」など前作からパワーアップしたバトルアクションは面白いですし、『龍が如く』シリーズではお馴染みとなったバカバカしいサブクエスト、舞台が変わったからこその景色の変化や『龍が如く7』の展開を踏まえての「ヤクザがほぼ登場しない」にファンサービスなど見応えもやり応えもたっぷり。
ついついプレイしてしまいたくなる魅力に溢れたゲームだったのですが、今作で一番魅力的だったのは「シナリオ」でした。
特に終盤は「この物語の結末がどうなるのか」だけで最後まで一気にプレイしてしまうほど面白くて。その結末も未来への希望が重苦しい物語を少しだけスッキリさせてくれる素晴らしい結末でした。
今作が扱っているのは「イジメ」と「復讐」という重い題材ではあるんですが、ここまで読ませる話になったのは「復讐そのものの是非」の物語ではなかったからでしょう。
本作において「復讐(=個人による私刑)」という行為そのものは、善とも悪とも言いづらい描写となっております。
「私刑行為は良くない。法の裁きに委ねるべきだ」と言えたらよかったんですが、復讐されているのは「法律が裁きを下す事が出来ず、犯した行為の責任から免れた存在」で、「法の裁きに委ねたのに相応の罰を与えられなかった」なんですよね。でも私刑行為を肯定するわけにもいかないので肯定されているわけでもない。
良く言えば「プレイした人の判断に委ねる」、悪く言えば「保留」なんですが、ここで私刑行為の是非について保留にしているからこそ「復讐が産み出していくもの」について描写することができる。
それは何かというと「復讐を利用して利益を得ようとする第三者の介入」です。
最初は個人的な復讐のつもりで始めた私刑行為が、その私刑行為を利用して自分達の利益になるように仕向けてくる。例えば全然関係ない犯罪の責任を取らせたり……とか。
そんな「復讐が産み出してしまった怪物」が本作の中盤から終盤にかけて描写されており、八神達も復讐者達も「イジメ被害者の復讐心」を利用しようとする第三者の意思に振り回されていく。
これがね、滅茶苦茶面白いんですよ。
復讐者達も第三者も全員の顔が見えているはずなのに、盤面だけはドンドン変わっていく。さっきまで強かったはずのカードが、今見ると一番弱いカードの可能性まで出てくる。
そんな目まぐるしく変わっていく状況の中で八神隆之だけは「真実が知りたい」「この状況で苦しむ弱者の味方でありたい」という意志を見せる。犠牲になった者達のために怒り、だからこそ探偵であり続ける。
そんな八神の存在が混迷極まった闇の中に差し込む光のようで、陰鬱な物語を真実と終焉まで牽引してくれていたと思います。
前作に引き続き、「木村拓哉」という役者が演じるからこその魅力に溢れていて凄いんですが、そんな八神隆之の対になる存在として描かれている山本耕史、もとい桑名仁もまた凄い。
彼には彼なりに「こうなるしかなかった」があり、そこにあるのは「正義」としか言いようがないもの。それを山本耕史が凄まじい熱量で演じており、木村拓哉の演技に全く負けていない。
物語上も演技上も、天秤の皿の上に乗せられた八神隆之(木村拓哉)と桑名仁(山本耕史)で均衡が保たれている。
プレイし終わった時は「凄いものを見た」としか思えなかったです。それぐらい山本耕史が凄かった。

『LOST JUDGEMENT』の結末については賛否両論があっていい。むしろあるべきだと思うんですよ。題材にしているものがものなだけに善とも悪とも言い難い。安易に善悪で断定できるのなら現代社会で大きな問題になったりしない。そういうものを題材にした以上、その結末に賛否のあるものというのは、「物語の結末はこうあってほしい」と思ってしまうほど真面目に受け止めてもらった証拠みたいなものですから。
私は八神隆之が「少しでも良くしたいと願う人達によって、いつか救われる」と述べてくれたことが全てかなと思います。そういう「良くしたい」という想いは伝わっていくと思うし、それが少しづつだけど社会を変えていくと思うので。そういう片鱗も描写してくれていたので、個人的にはこれでいいです。

ところでゲストで出演している役者が皆吹替が上手すぎて、十分上手いはずの玉木宏がちょっと下手に聞こえるの、どういうことだよ!

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。